突然ですが、英語に「earworm」という単語があります。

ご心配なく、これは耳に宿る寄生虫ではありません。「耳にこびりついて離れない音楽」や「頭の中で繰り返される曲」を指します。

皆さんにも「earworm」の経験、ありますよね。毎日聞いても飽きなかった大好きなバンドの曲、子ども時代のアニメ主題歌やCM曲。

最後に聞いたのは何十年も前のことなのに、ふとしたきっかけでメロディや歌詞がすぐに思い出せるのはなぜ?

そして頭の中で再生し続けるのは?

私も最近、小学生の頃に好きだったアニメ主題歌を思い出して歌えた経験がありました。以来、突然再生ボタンがオンになることがたびたびあります。

音楽が記憶に残る理由

このように音楽を忘れない理由について、 NPRに複数の研究者の話が紹介されていました。音楽を聞くとき脳内ではいろいろなことが起きているようです

  • 音楽は耳から一次聴覚野で処理される。
  • 言語を処理する部分が関与して、歌詞だけではなく音楽のメロディやビートをビートを処理する。
  • 音楽にはリズムや繰り返し、韻など、覚えやすい要素が多い。
  • 音楽を何度も聞くことに加えて、曲中でモチーフやコーラスが繰り返される反復性もある。
  • 音楽と感情との結びつきは強く、感情を処理する扁桃体が刺激される。
  • 歌詞や楽譜を見ながら聞くと視覚も刺激される。
  • 大脳基底核が活性化されて、快の感情や意欲を増やすドーパミンが出る。
  • 運動皮質が活性化される(音楽を聞くと体を動かしたくなる理由)。
  • 聞く経験は記憶を担当する海馬で処理される。
  • 歌うときの口の動き、つまり筋肉記憶も残る。

脳科学的にはまだ理由があるそうですが、音楽はこのようにさまざまな方法で脳に埋め込まれるため、思い出すことも簡単になるのだそうです。

驚いたことに、研究者は、家族の名前を忘れているアルツハイマー患者が若い頃に弾いた曲をピアノ演奏できるケースもあると述べています

パリのInstitut de l'Auditionの研究者、キース・ドーリング氏によると、曲の一部だけ覚えていれば脳がほかの部分を補充してくれるのだとか。

これは、アルバムの曲順を書き出せと言われたらできないのに、ある曲の終わりを聞いていると次の曲が正しく思い出せるようなことも当てはまるのかもしれません。

音楽を英語の学びに活用した経験

さて、書物や文字だけでは習得が難しいものの1つに外国語があります(ここでは英語を取り上げます)。

となると、記憶に残りやすい音楽を語学に利用しない手はありません。

まず、音楽そのものではないのですが、英語学習に耳と口を使うことについて考えてみましょう。

8月には本サイトの人気連載「印南敦史の『毎日書評』」で『英語が話せる人はやっている 魔法のイングリッシュルーティン』が紹介されていました。ひとりごとで英語を話す量を増やして、英語力を上げるという方法です。

英語が話せるようになる「ひとりごと」活用術

英語が話せるようになる「ひとりごと」活用術

これは私も効果があると思います。私は帰国子女ではありませんが、日本で英語を勉強して、英語を使う仕事に就き、現在アメリカで生活しています。

英語力のアップには、音楽、特に80年代洋楽が大きな位置を占めています。ビートルズをはじめ英語の曲を聞きまくり、週末には「アメリカントップ40」を欠かさなかった日々。歌詞カードを見ては歌い、歌詞を覚えては歌い、聞くたびにひたすら歌っていました。

これは、ある意味英語の「ひとりごと」と言えるでしょう。自分の体験から、研究者が述べているように、歌うときの口の筋肉記憶はあると思います。

ひとりごとや歌で英語を話す機会を増やしていけば、口の動きを体が覚えていて、実際に使う状況で言葉がスムーズに出てくる可能性が高まるはず(逆に、日本語でも使っていないと、言葉がわかっていても口の動きがついていかない場合もあります。個人的にも経験多々あり)。

ちなみに、私は英語の曲で覚えた単語もたくさんあります。ビートルズの『Help』の「appreciate」や、クイーンの『Don’t Stop Me Now』の『Fahrenheit』、ポリスの『Synchronicity』など数に限りがありません。

また、80年代洋楽愛の私が欠かさず観ていた「ベストヒットUSA」の小林克也さん(憧れの存在)は、英語の発音と小気味良いリズムを学ぶのにFEN(アメリカ軍極東放送、現AFN)を聞きまくったと話していました。

それを聞いて、当時ソニーから発売されていた1局専用カード型ラジオ(というのがあったんです)のFEN用を買って、通勤電車でイヤホンでひたすら聴いた時期もありました。

当時は半分ぐらいしか聞き取れなかったのですが、英語の発音やイントネーションを聞く、つまりそれに慣れるというだけでもプラスになったと思います

このように振り返ってみると、耳と口のトレーニングは知らず知らず行なっていました。

楽しんで学ぶが勝ち

11月の特集「『学ぶ』に勝る投資なし」にも、耳からの学びについて取り上げられています。11月16日11月18日に聞く学習法について話しているのは、株式会社オトナルの八木太亮さんです。

八木さんは、聞く学習法を楽しく続けるためのアドバイスとして、楽しく聞けるタイミングと楽しく聞けるコンテンツを見つけることを勧めています

「ながら聞き」で学べる音声コンテンツはこれから伸びる最強ツール

「ながら聞き」で学べる音声コンテンツはこれから伸びる最強ツール

音楽は楽しく聞けるコンテンツの1つですが、洋楽はあまり……という人は、英語のポッドキャストやインタビューはどうでしょう。

起業家、CEOなどビジネスパーソンのポッドキャストやインタビュー、興味のある分野の本のオーディオブックも利用できます。

『耳学習』習慣化の鍵はスキマ時間〜実践のための7TIPS」には八木さんオススメのチャンネルやポッドキャストもリストされているので、チェックしてみてください。

「耳学習」習慣化の鍵はスキマ時間〜実践のための7TIPS

「耳学習」習慣化の鍵はスキマ時間〜実践のための7TIPS

レコードやカセットテープ、ラジオしかなかった時代と比べて、今ではいつでもどこでもオンデマンドで、また隙間時間に聞くことができます。

私にとっては、まるで夢のような時代です。

ハードウェアなどの制約がないこの時代、刻苦勉励ではなく「楽しく学ぶが勝ち」だと思います。

なぜなら、自分の英語学習歴を振り返ってみると、英語力アップのために音楽を聞いたのではなく、音楽やラジオを楽しく聞いた結果として英語力が副次的に上がったと感じるからです。

でも、「英語力を上げるを目標にするのではなく、「字幕なしで洋画を楽しみたい」「国際機関で働きたいから」のような具体的な目標があると励みになります。楽しみながら学びを続けていったら、知らないうちにその目標が達成されているかもしれません。


Source: NPR