コロナ禍以降、すっかり定着した感のあるテレワークですが、個人・企業ともにリモートならではの課題も感じているのではないでしょうか。
そこで、「働きがいのある会社」普及のための支援活動を行なうGreat Place to Work® Institute Japan(以下、GPTWジャパン)がテレワーク下でのコミュニケーション課題をリサーチ。
164社の従業員、経営層へのアンケート結果や、「幸福学」で知られる前野隆司教授(慶應義塾大学大学院教授)の調査から、テレワーク下でも成果を出す組織の条件や、テレワーク下での年代別での課題感が浮き彫りとなりました。
この調査結果を踏まえて、どうすればより効率的に、より幸せに働けるのかについて考えていきましょう。
テレワークによって何が向上したのか
テレワークで成果が出ている会社は、テレワークによってどのような効果が得られたと考えているのでしょうか。
GPTWジャパンの調査では「テレワークで期待通りの成果が出ている」と回答した組織ほど、「生産性が上がった」と回答しています。
これはある程度予想できる結果ではありましたが、今後自社でのテレワーク導入における成果を振り返る際、生産性の向上が重要という点は改めて押さえておきたいポイントです。
キーワードは「相互支援」「相互尊重」
次に興味深いのは、テレワーク下では横のコミュニケーションの重要度が増している、という結果。
テレワークの成果実感のある企業ほど、「この会社で自分らしくいられる」「特別なことがあれば祝い合っている」「必要な時に周囲への協力を得られる」などの回答が高い値となっており、相互支援、相互尊重ができている組織か否かが、テレワーク成否において重要な要件となっていることが分かります。
ただでさえ孤独感を感じやすいテレワーク下。そのような状況でも相互支援を実感するためには縦・横のコミュニケーションを強化する必要がありますが、各社一体感の欠如を補うためにさまざまな施策を展開しているのだとか。
【縦・横のつながりを強化するための施策例】
・社長や経営陣となんでも話せる双方向でのオンラインコミュニケーションの場を設定
・毎朝10分間ランダムに組まれた数名のチームでゲームやフリートーク
・メンバーの誕生日祝い(バルーンやカード、プレゼントなどを自宅に送付して、当日オンラインでつながり、みんなでお祝い)
皆さんの職場ではどうでしょうか? テレワークで期待通りの成果が上がっていない、という組織には、このあたりの取り組みが参考になりそうです。
コミュニケーション以外でのポイントは?
さらにテレワーク成否を分ける重要なポイントして、コミュニケーション以外でもいくつか鍵となる要件があるそうです。
経営・管理者層に対する信頼(報酬、言行一致)、会社からの配慮(ワークライフバランス、安心安全が鍵)に高い値が見られます。
今回はパンデミックという先行きが不透明で未曾有の災禍だったこともあり、組織が従業員に対してどのようなスタンスを示すのかといった基本姿勢が従業員の働きぶりや生産性にも大きく影響したのかもしれません。
まずは物理的・心理的に安心・安全に働ける環境が整っているかが重要な指標と言えるでしょう。
幸福度の高い社員の生産性は31%高い
続いて、「幸福学」で知られる前野隆司教授(慶應義塾大学大学院)が紹介する各種データに着目してみます。
改めて驚きだったのが幸福感とパフォーマンスの関係性についてです。
なんと幸福感の高い社員の創造性は3倍、生産性は31%、売上は37%高い上に、欠勤率が41%、離職率が59%低く、業務上の事故が70%少ないことが明らかになっているのだとか。
さらには金、モノ、社会的地位(他人と比べられる地位財)型の幸せは長続きしない一方で、非地位財型の幸せは長続きするという結果も。
そうした分析も踏まえ、前野教授ははたらく人の幸せ、不幸せをこのようにそれぞれ7因子に分類しています。
今の職場や仕事内容を思い描いてみた時、該当しそうな因子はありますか? これは自身の現状を把握するための簡単なチェックリストとして活用してみてもいいかもしれません。
20代はチームワーク、役割認識、他者貢献因子が悪化
さて、ここからは前野教授が幸せ・不幸せ因子をもとにテレワーク下での状況を調査した結果です。
まず顕著な結果が表れているのは20代。
これは年代別幸せ因子の結果ですが、20代は唯一、テレワーク下でチームワーク因子、役割認識因子、他者貢献因子が悪化しています。
前野教授曰く、20代はまだ入社して年数が浅く、帰属意識が低い、上司の顔がよく分からない、誰に質問していいかわからないなどの不安を抱える人が多いのでは、とのこと。まさにこの結果からは若手社員の戸惑いや不安が感じられます。
さらに、こちらの不幸せ因子では20代以外にも特筆すべき特長が見られました。
不幸せ因子の中で、テレワーク下で悪化しているものを年代別で挙げてみると、以下のような結果になりました。
20代:自己抑圧、オーバーワーク、疎外感
30代:自己抑圧
40代:オーバーワーク、疎外感
50代:オーバーワーク
40、50代のオーバーワークの背景としては、リモートになったことで部下にどのように仕事を割り振ればいいのか分からず、自分でやってしまう例も推察される、とのこと。逆に60代は悪化している因子はゼロでした。
前野教授はリモートワークによって、より不幸になった人と、より幸せになった人の二極化が進み、中間層は減っている可能性があると指摘。組織内の年代に合わせて、状況を具体的に確認し、対策を打つことが求められそうです。
テレワーク下で連帯感を高めるポイント
各年代テレワークで孤立したり、一人で仕事を抱え込んでいる状況が見え隠れする結果となりましたが、テレワーク下で連帯感(チームワーク)を高めるためには、職場で今何が必要とされているのでしょうか。
前野教授はコロナ禍で失われた雑談の機会が重要なポイントだと言います。
実は雑談がきめ細かなコミュニケーションを担っていたんです。
リアルの時以外でも、「どうしてる?」などの声がけを意識的に、定例の場以外でも取り入れて、コンディションを確認していくことが大切です。
思い返せば、オフィスで交わされる雑談の中には近況報告などさりげない話題から会社の目指す方向性などがカジュアルに共有される場でもありました。ささいなやりとりが、私たちの働きぶりや生産性にも大きく作用していたのです。
さらにオンラインでよく議論の的となる「ビデオをオンにするかどうか」問題についてはこんな見解が。
もちろん配慮は必要だが、できれば顔を出したほうがいいんじゃないかと思います。より深く知り合う、関わり合うための工夫は必要ではないでしょうか。
深く関わり合う=面倒なもの、と捉えられることもありますが、効率性や生産性を重視しすぎると逆に見失ってしまうものもあるでしょう。状況に応じて、相手を配慮した上での心地よい関わり方を模索することが、改めて求められているのかもしれません。
より効率的に、幸せに働くためにどうすればいいか
アフターコロナと呼ばれる今後、前野教授は「これからはスタンダードのない社会になる」と見据えています。
テレワークが何割、という考えではなく、より効率的で幸せに働くにはどうしたらいいのかといった視点が重要です。
これをちゃんと考えたところとそうでないところには、幸福度や生産性、企業の生き残りにもじわじわと差が出てくるでしょう。その会社にとってウェルビーイングを最大化するためにどうすればいいのか、しっかりと見極める必要があります。
出社人数の割合や通勤のあり方だけに捉われるのではなく、それぞれの立場に耳を傾け、着実に現状を見つめながら試行錯誤を繰り返す。
決して簡単なことではありませんが、長期的な視点での取り組みが今、改めて必要となりそうです。