コロナ禍の最大の課題は、医療の逼迫だ。これまで日本医師会は「医療提供体制が逼迫する恐れがある」として、就労制限などの感染防止対策を求めてきた。しかし、一部の医療者はこうした呼びかけに首を傾げる。ジャーナリストの笹井恵里子さんは「危機を叫び続ける医師会は『断らない医療』を実践する徳洲会に学ぶべきではないか」と指摘する――。

※本稿は、月刊『Hanada』(2022年1月号)の記事「徳洲会病院、コロナとの闘い」を加筆・再編集したものです。

湘南鎌倉総合病院が整えた臨時病棟
撮影=笹井恵里子
湘南鎌倉総合病院が請け負う180床のコロナ臨時病棟

海外より患者数が少ないのに、なぜ医療崩壊の危機なのか

「コロナというだけで、(患者を)断るって気持ちがわかりませんね」

と、岸和田徳洲会病院の東上震一総長が私に言った。昨年の夏、関東が第5波でパニックに陥っている頃のことだ。

岸和田徳洲会病院の東上震一総長
岸和田徳洲会病院の東上震一総長(撮影=笹井恵里子)

「僕ら民間の病院ですが、“絶対に断らない”を実践できますよ。私が現場で心臓外科医として奮闘していた頃、ただの一度も『お願いします』を断ったことはないです。なんでかといったら日本中の緊急性のある心疾患の患者がくるわけではない。自分の病院にきた患者、緊急性のある患者は絶対に断らない――全ての病院や医師がその姿勢でやれば医療逼迫ひっぱくは、あっという間に解消されます。日本の医療資源は潤沢なんですよ。あまり精神論を言いたくないですが、『もうちょっと頑張ってみよう』とコンセンサスをとれないことが医療危機ではないでしょうか」

その通りだと思った。日本は世界最大級の病床を誇るのだ。それがなぜ、海外と比べて少ない患者数でこれだけ医療崩壊、医療逼迫と叫ばれるようになってしまったのか。

ちょうど1年前の2021年1月、私はプレジデントオンラインで「「医療崩壊と叫ぶ人が無視する事実」コロナ禍でも絶対に救急を断らない病院がある」という救急現場の密着取材記事を発表した。それは、日本で最も救急搬送を受け入れている湘南鎌倉総合病院の救命救急センターだ。これに対し、記事が転載されたヤフーニュースには「それはこの病院だからできるのだ」「じゃあこの病院に患者を送ればいい」という否定的なコメントが並んだ。それでは問題解決にならない。

「コロナ以外の救える命のために」という言い訳

それから半年以上経過した昨年秋の時点で、神奈川県にあるおよそ350施設のうち、4分の3の施設でコロナ患者を受け入れていないといわれていた。コロナ病床を確保したと偽りの申告をして補助金を得ておきながら、実際には使われていなかった幽霊病床も問題視された。

湘南鎌倉総合病院救命救急センター長の山上浩医師は「海外と日本の差」を指摘する。

「海外の医療崩壊という報道では、病院に患者がごったがえして廊下に並んでいるような映像が流れるでしょう。しかし、日本では受診すらできない状況ですので、残念ながら病院がごったがえしている報道は見たことがありません」

前出の東上総長も、こう言う。

「“コロナ対応という名目のために、救えるべきコロナ以外の患者さんの命を見捨てることがあってはならない”。それは当たり前のこと。ところがこの論法は、“ですから、コロナ以外の救える命のためにもバランスを考え、コロナ対応は制限せざるを得ない”と続きます」

つまりなんの工夫も努力もせず、「コロナ以外の救える命のために」という名目(言い訳)によって、コロナ受け入れ人数を増やさない病院がある、ということだ。