2500年も読み継がれている戦略の教科書 図解大人のための孫子の兵法』(遠越 段 著、叢 小榕 監修、総合法令出版)は、中国最古の兵書であると同時に、現代のビジネスパーソンにも強く訴えかける名著としても知られる『孫子』についてわかりやすく解説した一冊。

『孫子の兵法』というタイトルには、戦争に勝つための書、あるいは人の裏をかいて出し抜くテクニックが書かれているようなイメージがあるかもしれません。

もちろん「孫子の兵法」を学べば、戦いに勝つための策を身につけることはできるでしょう。しかし「孫子の兵法」の凄みは、もっと大きなものであるようです。

孫子が一番強調し、教えているのは、戦争や競争に負けるということは、自分の生命や財産、人生を失うもので、あってはいけないことであるということだ。だからこそ無意味な戦いはやってはいけないし、絶対に勝たなくてはいけないとする。

そして最も善いのは戦わずに勝つことだとしている。戦えば少なからずこちらも傷つく。また勝ったとしても、相手に恨みを抱かせることにもなる。

だから戦わずにこちらの目的を達するように普段から対策を立てるべきだと教えている。そのためにも本物の実力を身につけることを心がけなくてはいけない。(「まえがき」より)

そこで本書では、現在残されている孫子の教えをほぼすべてまとめ、わかりやすく解説しているのです。きょうは第3章「戦争回避の鍵は情報」のなかから、2つをピックアップしてみたいと思います。

戦いを避けて屈服させるのが最高の策

孫子曰く、凡そ用兵の法は、国を全うするを上と為し、国を破るはこれに次ぐ。軍を全うするを上と為し、軍を破るはこれに次ぐ。旅を全うするを上と為し、旅を破るはこれに次ぐ。卒を全うするを上と為し、卒を破るはこれに次ぐ。伍を全うするを上と為し、伍を破るはこれに次ぐ。是の故に百戦百勝は善の善なるものに非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる物なり。(48ページより)

【大意】

孫子はいう。戦争のあり方としては、敵国と戦わず敵の国力を保全したまま降伏させるのが上策であり、敵国と戦って打ち破るのは上策に劣る。

敵国の戦力を保全したまま降伏させるのが上策であり、敵国と戦って打ち破るのは上策に劣る。敵の旅団の戦力を保全したまま降伏させるのが上策であり、敵の旅団と戦って打ち破るのはこれに劣る。

敵の大隊の戦力を保全したまま降伏させるのが上策であり、敵の大隊と戦って打ち破るのは上策に劣る。敵の小隊の戦力を保全したまま降伏させるのが上策であり、敵の小隊と戦ってこれを打ち破るのは上策に劣る。

つまりは百回戦って百回勝つというのは最高の勝ち方ではなく、戦わないで敵の軍隊を屈服させることこそが最高の勝ち方だということ。

【解説】

敵国を打ち破って戦争に勝つ姿は華々しく見えますが、そこには弊害もあるもの。まず、一部だったとしても自国の兵を消耗させ、死なせてしまうことになります。また敵国の人に憎まれたり、国土を破壊してしまって復旧にお金がかかることにもなります。したがって、「敵と戦わずに勝つ」ということを理想のあり方として目指すべき

喧嘩はしないほうがいいに決まっており、喧嘩をせずにこちらのいうことをわかってもらえるようにすることが大切。あるいは譲れないところを理解してもらえるようにするのが、いちばんいいわけです。(48ページより)

主君と将軍の関係は距離を保つことが肝要

夫れ将たる者は国の輔なり。輔周なれば国必ず強く、輔隙なれば即ち国必ず弱し。故に君の軍に患うる所以の者に三あり。軍の進むべからずを知らずして、これに進めと謂い、軍の退くべからずを知らずして、これに退けと謂う。是れを軍を縻すと謂う、三軍の事を知らずして、三軍の政を同じうすれば、即ち軍士惑う。三軍の権を知らずして、三軍の任を同じうすれば、即ち軍士疑う。三軍既に惑い且つ疑うときは、即ち諸侯の難至る。是れ軍を乱して勝を引くと謂う。(60ページより)

【大意】

そもそも将軍とは国の補佐役。補佐役が主君と密接であればその国は必ず強くなるが、両者の間に隙間があれば、国は必ず弱くなる。

このことについて、主君が軍に関して起こしてしまう問題は3つ。

まず第一は、軍が進撃してはいけないことを主君が知らないまま進撃しろと命令し、軍が退却してはならないことを知らずに主君が退却しろと命令すること。

こうした勝手な振る舞いによって、軍は不自由な状態になってしまう。

第二は、軍隊の事情を知らないのに将軍とともに軍隊の管理を行えば、兵たちは迷ってしまうということ。

そして第三は、軍における臨機応変の処置もわからないのに、軍の指揮を将軍と同じように行うと、兵は疑いを持ってしまうということ。

軍が迷ったり疑ったりすれば、隣国の諸侯たちが兵を挙げて攻めてくる。このように主君と将軍の間に距離があると、軍が乱れ、自ら勝利を取り去ってしまうことになる。

【解説】

軍を企業に置き換えれば、主君は社長で将軍は部門のトップ責任者ということになるでしょう。

孫子はここで、権限の所在は主君になり、その信任を得た将軍との関係が密で、信頼関係が厚い組織は必ず強くなると主張しています。

逆に関係が密でなく、あるいは主君が将軍を信用しなければ必ず組織は弱くなるとも。主君や企業の社長が部門の責任者を無視して直接あれこれ口出しをすると現場が混乱し、組織を弱くするおそれがあるわけです。

もし社長が部門のトップを信頼できないのなら、直接現場を指揮するのではなく、部門のトップを交代させるべき。有能で信頼できるトップを置かない限り、組織は弱くなるからです。

また、主君や社長などの最高権力者が陥りやすいのは、将軍や部門のトップ人事を能力や器量でなく、口のうまいお調子者を選んでしまうこと。しかし信頼の前提は、戦いや競争に勝てる将としての能力を持っていることなのです。(60ページより)

『孫子』の魅力は、2500年の歳月を経ても色褪せることのない、さまざまな意味においても「強さ」。そのエッセンスを本書から学び、ビジネスや人生に生かしてみてはいかがでしょうか?

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Source: 総合法令出版