「感情をきちんと制御できる人」と「感情に振り回されている人」との違いは、「境界線が見えているかどうか」。

そう主張するのは、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントである『ズバ抜けて結果を出す人だけが知っている 感情に振り回されないための34の「やめる」』(片田智也 著、ぱる出版)の著者です。

「境界線」とは、「自分次第でコントロールできるもの」と「コントロールできないもの」を分ける線のこと。そして、この本の目的は、あなたにも「境界線」がハッキリと見えるようになってもらうことです。(「はじめに」より)

境界線がクリアに見えると、余計なことで気を揉まずにすむため、大事なことに力を注げるというのです。とはいえ著者も最初から境界線が見えていたわけではなく、それが見え始めたのは、緑内障によって視力を大幅に失ってからなのだそう。

当初は「どう生きていけばいいのか」と不安やイライラ、後悔、怒りなどの感情に苛まれ、なににも集中できなかったものの、「自分でどうにもならないことは無視しよう。それしかない」と感じてから、いろいろなことが変わったというのです。

コントロールできないことをどうにかしようと躍起になる。

そうやって執着するから感情が乱されるのです。「失った視力や視野が戻ることはもうない」。潔く、境界線から先をスパンと切り捨ててしまいました。(「はじめに」より)

その結果、「どうにもならないこと」に向けていたエネルギーが戻り、だんだんと「コントロールできるもの」に意識が向くようになったのだとか。それは、他のさまざまなことにもあてはまるのではないでしょうか?

こうした考え方に基づく本書のなかから、きょうはChapter 2「不安に支配されないための『やめる』」に注目してみたいと思います。

「不安になるのは弱い人」という誤解を、やめる

著者はここで、不安は「ダメな人、弱い人の証拠」ではないと断言しています。それどころか、ちゃんと不安になれるのは「結果を出せる人の条件」なのだとも。

社会心理学者、ダニングとクルーガーの実験がわかりやすいでしょう。

学生を対象に学力テストを実施し、さらに、結果に対する自己評価をさせたところ、成績がよかった学生ほど、なぜか「自己評価が低いこと」がわかりました。結果を出せる人の方が「できていないかも」と不安になりやすいのです。(41ページより)

不安とは、「そのままだと危ないよ」と対処を促すための信号。したがって、より小さな誤りにも気づける「不安を感じやすい人」のほうが致命的なミスを避けられるわけです。そしてその結果、「うまくことをなせる」ようにもなるということ。

また、大きな結果を残す人は、よくも悪くも外からの評価を気にかけないのだそうです。ビジョンが大きいからこそ、他人からの評価に満足してしまわず、つねに自分の力量に不安を感じる。だからこそ、努力を続けてしまうということのようです。

不安になりやすいとは「安心を感じにくい」こと、つまりは「ここまでやれば充分」という基準が高いことでもあります。しかし、それは必ずしも「よくないこと」ではないはず。

「こんなのじゃダメだ」「まだ安心できない」「もっと追求できるはず」というように“安心安全、OKの基準”が異様に高いからこそ、よい仕事になるのですから。(40ページより)

「不安で行動できない」を、やめる

ときには、「不安で行動を起こせない」こともあるかもしれません。しかし上記にもあるとおり、不安とは「危険が近づいていること」を知らせるシグナルであり、そこで求められるのは備えや対処といった「行動」です。

だとすれば、「不安のせいで行動を起こせない」というのはおかしな話。どうして、そんなことになってしまうのでしょうか? 著者によればそれは、備えに「確実さ」を求めているから。

不安が警告しているのは、あくまでも「未来」の危険

ですが、これから先の未来で何が起きるのかはどんなに考えてもわかりません。わからないものに「確実に備えること」などできるでしょうか。

いかに時間をかけたところで「正しい答え」は見つからないでしょう。「正解」がある前提で考えていたら、身動きが取れず、固まってしまうのも当然。

期限いっぱい、不安と「ムダな格闘」をすることになります。(56〜57ページより)

つまり、確実さや完璧さ、正しい答えにこだわっていることこそが「不安で行動できない」という心理の源泉。だからこそ、そこから抜け出したいのであれば、重要なのは「正解ありき」から「修正ありき」へ考え方を変えること。

私たちはどうしても、「正解ありき」でものを考えてしまいがち。これまで「なにから始めるのは正しいのかな」「どんなリアクションが正解なんだろう」「この選択肢でよかったのだろうか」というように、「正解がある前提」の問題をたくさん解いてきたのですから、それは仕方のないことでもあります。

しかし仕事の問題も、もちろん人生の問題も、「誰かが考えた設問」ではありません。ましてや当然のことながら、ゲームのように「正解が用意された世界」とも別ものです。

ですから結果をコントロールすることはできませんが、自分で選んだ道を正解に近づけようと力を尽くすことは可能。そこで著者は以下のように考えることをすすめています。

まずは「正しい答えは存在しない」と割り切ってください。その上で「正解ありき」から「修正ありき」へ、考え方を変えることです。

「修正ありき」とは「試行錯誤する前提で臨むこと」を意味します。

一度でうまくいくことを手放し、間違えることを許してあげてください。とりあえずで構いません。不完全でも「たたき台」を出す勇気を持つことです。(58ページより)

未来が不確定である以上、完璧に準備することなどできません。どれだけ綿密に備えたのだとしても、一抹の不安は必ず残るもの。しかし、「できる限りの対処をした」のであれば、それはもう「無視するべき不安」だということになります。

「不安だから行動できない」のではなく、「行動しないから不安が続く」のです。しかも、待っていたところで不安が消え去ることはありません。したがって、対処できる範囲を超えたら、不安があっても行動に移すべき。それこそが、不安を最小限に食い止める方法なのだということです。(55ページより)

「コントロールできるもの」と「そうでないもの」を分かつ境界線さえクリアできれば、なにかに振り回されることはなくなると著者は断言しています。そんな主張が説得力を感じさせるのは、バックグラウンドに著者自身の経験があるからなのでしょう。

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Source: ぱる出版