タイトルからもわかるとおり、『元サラリーマンの精神科医が教える 働く人のためのメンタルヘルス術』(尾林誉史 著、あさ出版)の著者はサラリーマンを経て精神科医になったという異例の経歴の持ち主。現在はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷院長として、そして多くの企業でカウンセリング業務を務める産業医として活動されているそうです。

つまり本書は、そうしたバックグラウンドを軸としたもの。かつては自身が「気持ちが沈んでしまう…」というような状況に追い詰められたからこそ、同じように心の水位が下がって心細い状態にある人に、少しでも安心してもらいたいと考えているのだといいます。

僕は、本気の医療者と本気の患者さんが結びついたときに、いい臨床現場が生まれて、回復への道が開けると考えています。

本書では、メンタル不調を自覚した段階から、最もいい回復をするために知っておいてほしいことを、お話ししていきたいと思います。(「はじめに」より)

そんな本書のなかから、きょうは第2章「クリニック・ドクターの選び方」内の「心の水位が下がってしまったら、誰に相談したらいいでしょう?」に焦点を当ててみたいと思います。

心の水位が下がってしまったら

Q:心の水位が下がってしまったら、誰に相談したらいいでしょう?

A:友人、上司、人事、クリニックなどの選択肢が考えられます。

(38ページより)

著者によれば、「入り口」の選択肢は(1)友人、同僚、家族、(2)上司、(3)人事労務など会社の担当部署と産業医、(4)クリニックという4つ。

そしてポイントは、自分にとって叩きやすいのはどの扉かということ。「こちらをやってみて、だめだったからこっちもやってみよう」など、合わせ技を使うのもいいようです。

それぞれを見ていきましょう。

(1)友人、同僚、家族

いちばんハードルが低いのが、友人、同僚、家族に話すこと。弱音を吐いたり愚痴をこぼしたりすることで気が楽になるのなら、もっとも手軽なやりかただといえるかもしれません。

とはいえパワーが落ちて自信がなくなっているときは、話をする元気がなかったりもするもの。一方の相手が元気で、こちらのことをわかってもらえないとすると、なにげないことばで傷つくことにもなりがちです。

そこで大切なのは、「うまく相談できなくても仕方ない」と考えること。たまたま話せる人がいて、たまたまそういう機会が持てたらラッキーだというくらいに思っておくべきだということです。(38ページより)

(2)上司

管理、監督、サポートをする存在である上司は、業務調整などを通じて遅かれ早かれ関わってくる相手。業務量や業務時間の調整をするとか、休職するといったことも、上司を通さざるを得ないわけです。

もしも相談して、

「そうか、君の話を聞くと、ちょっと働かせすぎていたな」

という理解がある上司だったら幸運と言えます。

「一定期間、君の作業量をグループとして、チームとして請け負うよ」

という話になれば、心の水位が下がったあなたの状態を、良くしていくことができるかもしれません。

上司に言えば必ず解決するとまでは期待しにくいのですが、中には一生懸命やってくださっている方もいます。(40ページより)

ただし、自分のことを悩ませる張本人が上司だというケースも考えられます。そんな場合は、さらに上の上司のところに行くか、あるいは人事に相談することになるでしょう。

とはいえ、上司の上司に相談するのは気が重いもの。問題の上司が「俺を飛び越えてなにを勝手なことをしているんだ!」と逆上してしまう可能性も否定できません。したがって、そうならないために、まず社内の担当部署に相談することを考えるべきだと著者は述べています。(39ページより)

(3)人事労務など会社の担当部署と産業医

人事労務、保健センター、コンプライアンス部、メンタルヘルス推進室など、会社によって部署名は異なるでしょうが、ともあれ当該部署に相談することは大切。

そこから産業医面談が設定されるという場合も多いでしょう。いうまでもなく産業医の役割は、その企業の従業員の心身の健康を良好に維持し、保つこと。

②のように上司に相談をした場合にも、上司が人事労務に相談をして、人事労務から産業医面談が設定されるというケースがあります。

そうした部署には、本来、今困っていることをそのまま相談していいのです。

ただし、人事に報告されると、今後に影響するのではないかなどと思う方もいるし、ありのままに話すことを逡巡することが多いのもわかります。(41ページより)

そのあたりは、ケースバイケースであると考えるべきなのかもしれません。(41ページより)

(4)クリニック

今まで挙げてきた①友人、同僚、家族 ②上司 ③人事労務など会社の担当部署と産業医は、後ろに行くほど本音を伝えにくくなるでしょう。

ただ、しっかりとなんらかの手が打たれる可能性は高くなってきます。

ハードルは高いけれど、実際に周りが動いて支える態勢ができていくのですね。(42ページより)

どれを選ぶか迷っているうちに、状態が悪化するということも決して少なくないはず。

しかし自分ひとりで抱え込んでいるのがいちばん望ましくないので、これらのどこかにたどり着いてほしいと著者は訴えています。(42ページより)

メンタル不調は、その影響で人格や人間性が変わってしまうものでも、今後のことがだめになってしまうものでもないと著者は断言しています。

そうではなく、回復して、前よりさらによくなっていけるわけです。そのことを念頭に置いて本書を読んでみれば、よりよく生きることができるようになるかもしれません。

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Source: あさ出版