働く君に伝えたい「本物の教養」 池上彰の行動経済学入門』(池上彰、学研プラス)の冒頭では、「タバコ屋の看板娘」の話題が登場します。

「若い娘さんが店番をしているタバコ屋さんには、その娘さんからタバコを買おうと多くの男性が集まる」という、はるか昔によく聞いた話。

タバコの値段はどこで買っても同じなのに、いつでも合理的な判断をするわけではないのが人間というもの。遠出をしてでも若い娘さんがいる店に買いに行くというようなことは、往々にして考えられるわけです。

そしてこれは、「人間はいつでも合理的に行動するわけではない」という観点から研究が続いている「行動経済学」で説明がつくことのようです。

私たち人間は、頭では「不合理だ」と思っていることでもやってしまうことがありますね。ギャンブルで勝っているとき、「ここでやめれば儲けになる」と理解していても、やめることができずに、結局はスッテンテンになってしまう。こんな人間的な弱さを分析してみたら、何がわかるだろう。それが「行動経済学」です。(「はじめに」より)

そんな行動経済学は、これからの時代を生きていくうえで役立つものだと著者は述べています。

基礎的なことをもう少し理解するために、introduction「そもそも行動経済学とは何か」に目を向けてみましょう。はたして行動経済学から、わたしたちはなにを学ぶことができるのでしょうか?

経済は「感情」で動いている

従来の経済学の前提としてあるのは、人間はつねに合理的に判断して動くものだという考え方。

ところが実際のところ、人はしばしば非合理的なことやムダなことをしてしまうものです。そのため、これまでの経済学では説明のつかないことがたくさんあったわけです。

そこで人間の心理、すなわち心の働き方というものを重視して、経済の動きを読み解こうとするのが行動経済学です。(13ページより)

なにが現実の経済を動かしているのかと問われた場合、需要と供給、金融、賃金などに意識が向いてしまいがちではないでしょうか?

しかし実際には、人間の感情や心の動きもまた、経済という生きものをつくりだしている重要な要素だということです。(12ページより)

お金に関する「心の動き」がわかる

必ずしも合理的に判断して行動しているわけではないのだとすれば、私たちはどのように意思決定をしているのでしょうか? 著者によれば、そこには感情が関わっているのだそうです。つまり、「心の動き」を理解すれば、意思決定のプロセスを知ることができるということ。

そして、その意思決定のプロセスを解き明かそうとするのが、行動経済学の主眼のひとつ。行動経済学の重要理論には、意思決定のプロセスに関わるものが多数あるというのです。

意思決定のプロセスを知ることは、とくに株価や為替レートの動き、個人の消費行動など、短期の経済動向をつかむうえで有効といわれます。(15ページより)

近年は行動経済学が「使える経済学」として注目され、その役割に期待が寄せられているのだそうです。つまり、その理由もここにあるわけです。(14ページより)

さまざまなビジネスシーンで使える

行動経済学の理論が確立される以前から、その法則を体験的にビジネスに活かしていた人たちがいたのだといいます。それは、マーケティングや広告の専門家たち。

消費者心理にどう働きかければモノが売れるか。つまり、売れる仕組みを追求するマーケティングは、行動経済学の実践そのものといってもいいでしょう。(16〜17ページより)

同じく、「なにをつくるか」「どんなサービスを提供するか」も、消費者の動向や心理を抜きにして考えることは不可能。したがって、商品企画なども行動経済学の応用が発揮される分野だということになります。

それに加えて見逃せないのが、マネジメントの現場。たとえば「部下はどうすれば動くか」という問題に関するヒントも、行動経済学の理論に多く含まれているわけです。(16ページより)

行動を変え、自分をも変えることができる

上記を確認するだけでも、行動経済学が「ビジネスに使える学問」であることがわかるのではないでしょうか。しかしそれだけではなく、行動経済学にはもうひとつ大切な有益性があるのだと著者はいいます。

それは、その理論や法則が他者に対してだけでなく、自分自身にも有効だということ。

人間心理に基いて人を動かすのに有効なその理論は、自分に向けることで、各自の自己実現への頼もしい味方になるというわけです。(18〜19ページより)

たとえば、資格取得試験のために勉強しなければいけないにもかかわらず、お酒を飲んでしまったとか。あるいはダイエットのための運動を始めても長続きしないとか…。

どちらもよくあることですが、そんなとき「こうなるのは意志が弱いからだ」と自分を責めたとしても、当然ながら目標を達成することはできません。

大切なのは、人の行動を変えるための理論と方法が存在するということ。そして、それを行動経済理論は教えてくれるというのです。(18ページより)

たとえば本書を購入するにあたっても、「役に立つから買う」という合理的な思考をする必要はないと著者はいいます。「おもしろそうだから買う」という行動を取るべき、つまりはその根底にあるのが行動経済学の本質なのだと。

だからこそ、まずは読みものとして楽しんでみてはいかがでしょうか? そこから開けていくことは、きっとあります。

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Source: 学研プラス