投資で失敗したくない――誰もがそう考えることでしょう。しかし、リスクのない人生はないことと同様に、リスクのない投資は存在しません。

「未来を見通す投資思考」特集では、本格的に投資をはじめる前に知っておきたい投資の基本原則から思考法、現在の最新トレンドや最先端のテクノロジー投資、FIREを実現したエピソードなども交えて、「未来を見通す」投資をするために必要なことをお伝えします。

前回の読者アンケートに続いてお届けするのは、「投資家思考」です。不動産投資会社アップルハウスの代表で、資産運用から起業支援まで顧客のライフコンサルティングを手掛ける鈴木優平さんに、投資だけでなく仕事や人生すべてに応用できる「投資家思考」についてお聞きしました。

鈴木優平(すずき・ゆうへい)

鈴木優平(すずき・ゆうへい)

株式会社アップルハウス代表取締役。お金のパーソナルトレーナー。1983年生まれ。大学卒業後、大手不動産会社に営業として就職。入社後は新卒の売上記録を更新し、最年少で課長就任。在職中に関わった案件で売上100億円を達成する。2015年、株式会社calf設立。2016年には投資用不動産の販売仲介、管理を行う株式会社アップルハウス、Approomを買収。赤字だった2社を2年でV字回復し黒字化させる。「誰もが自己実現できる世の中に」を理念に掲げ、資産運用から相続、転職、起業支援まで、ライフコンサルティングを手掛ける。著書に『実録マンガ 好きなように生きたくて不動産投資はじめました』、『投資家思考』(アスコム)など。

株や不動産の「買い時」はいつ?

「お金のパーソナルトレーナー」として、日々多くの顧客から資産形成などお金にまつわる相談を受けているという鈴木優平さん。

その中で、よく株や不動産の「買い時」について相談されることがあるそうですが、鈴木さんは必ずこう答えるそうです。

買い時は、今

投資の基本というと、「長期」「積立」「分散」の3つがよく挙げられます。長い期間、毎月積み立てて、複数の資産に分散して投資することが最もリスクを軽減させると言われています。

鈴木さんは、この中でも「長期」が最も大事だと力説します。

要は、一刻も早く投資をはじめることですね。長く投資すればするほどリスクは下がるわけですから、常に「買い時は今」と私はお伝えしています。

ある20代の会社員の方が「このままでいいのだろうか」と将来の不安やモヤモヤを抱いて相談に来たことがあり、鈴木さんは投資の手法や商品の種類、リスクまで、事例を交えて丁寧に説明したそうです。

その方も「それならできそう」と話していたそうですが、しばらくして結局「リスクを冒したくない」「失敗するのが怖い」と何もしないことになりました。

それはそれで一つの選択肢ですし、投資をすることだけが人生の正解とは言いません。

でも、リスクのない人生などありえません。人間、生きているだけでさまざまなリスクにさらされているわけです。

やみくもにリスクをとれという話ではなく、リスクを正しく評価するのが投資家です。その上で得られるリターンも正しく見定めて、チャレンジするか否かを決めるのです。

私は、「投資をしない」ことによる損失回避より、「投資をしない」ことによるリスク、損失のほうが大きいと考えています。

「投資」と「投機」は違う

リスクを抑えながら正しく評価し、リターンを見極めて適切なリソースを投下するのが投資家の考え方
リスクを抑えながら正しく評価し、リターンを見極めて適切なリソースを投下するのが投資家の考え方

鈴木さんは「投資と投機は違う」と語ります。投機とは、大きなリスクをとって、短期間で大きなリターンを狙うこと。一方、投資とはなるべくリスクを抑えながら、長い時間をかけて着実にリターンを得ること

先の相談者さんのような方が恐れているのは、投資ではなく「投機」ではないでしょうか。

リスクのない投資は存在しませんが、できる限り「長期保有」することでリスクを下げ、合わせて「分散」して「積み立て」ることで、より安定的なリターンを得ることができます。

もっと言うなら、これは金融投資だけの話に限りません。人生とは、自分自身をリソースとしてさまざまなことに挑戦し、リターンを得るものです。人生=投資と私は考えています。

自分がどう生きたいのか、どんなキャリアを実現したいのか、最終的な人生のゴールをどこに設定しているのか。それにもとづいて、自分のリソースをどこに振り分けるのかを考えるべきです。

お金はそのための手段でしかないのです。

投資家思考は仕事やキャリア、人生すべてに応用できる

鈴木さんが考える投資家思考とは、以下のようなものです。

  1. 手持ちの資産を確認する
  2. リターンの目標と期日を決める
  3. リスクとリターンを正しく評価する
  4. リスクをとってチャレンジする

これを仕事やキャリア、プライベートまで広げて考える。そうすることで、より自分が理想とするキャリア、人生を実現することが投資家思考だと語ります。

リソースはお金だけではありません。自身の時間、労力、信用すべてです。

それらを使って、金融資産や自由、キャリア、成長、生きがい、人脈、モノ、感動…あらゆるリターンを得ること。

ひいては、限りある資産を有効に使って幸福な未来を向かうためにするための武器、それこそが投資なのです。

そう考えると、日々の行動一つひとつがすべて投資であるということに気が付きます。会社で働くということ、これは自身の時間と労力をリソースに、給与や働きがいといったリターンを得ているわけです。

コンビニで飲み物を買うことだって投資です。百数十円のリソースで、喉の渇きをいやすというリターンを得ている。

私たちのすべての行動は投資なのですが、問題はそれを意識しているかどうかです。自分が今どういうリソースを使って、どんなリターンを得ているのか。そのリソースとリターンを正しく評価して、判断を下すことを意識してみてください。

そうすることで、決断の質が高まり、より効率よくリターンを得ることができるようになります。逆に言えば、リソースのムダ遣い、お金や時間を無為に費やすことが少なくなるのです。

投資の鉄則は「自分で売買の判断をしない」こと

自分で売り時、買い時を判断しようとすると損失を拡大しやすい。投資したら放置、が鉄則
自分で売り時、買い時を判断しようとすると損失を拡大しやすい。投資したら放置、が鉄則

では、実際に金融投資をはじめようと思ったとき、具体的に何からはじめればいいのでしょうか。

iDeCo、NISA、株式投資、不動産、何からでもいいと思います。ただ気を付けてほしいのは、自分で売り買いの判断をしないこと

たとえば株式投資をはじめると、どうしても株価がどうなっているかが気になります。損失回避の傾向などから、少し上がれば売りたくなったり、少し下がったら上がるまで待とうと考えたりしてしまう。

結果として、判断を違えて損失を被ってしまうのです。投資をはじめたら、一切自分で判断することなく、放置する。あるいはすべてプロに任せてしまう。これも投資の鉄則です。

あとは、「長く持ち続ける」ことを考えると、好きな商品やサービスを扱っている会社の株を買うのも一つの手だと思います。多少株価が下がったとしても、応援し続けることができる会社の株を保有し続けてほしいと思います。

まとめると、「少しでも早くはじめること」と「自分で売買の判断をせず、運用はプロに任せて放置すること」、そして「長く持ち続けたいと思える資産を保有すること」。

この3つさえ守れれば、極力リスクを抑えつつ、安定的なリターンを得られる可能性が高いということなのです。

独立と同時に赤字の不動産会社を買収した人生最大のチャレンジとは

ここまで投資家思考について説明してきましたが、鈴木さん自身は投資家思考によってどのようなキャリア、人生を歩んできたのでしょうか。

私の人生にとっての大きなリスクテイクは、起業したことです。正直、企業経営はリスクの連続ですが、「誰もが自己実現できる世の中をつくる」という理念達成という大きなリターンを目指して日々奮闘しています。

私は不動産会社の営業を10年勤めてから独立しましたが、結果としてもっと早く起業していればと感じています。金融投資同様、残された時間が長ければ長いほど、リスクも小さくなるからです。

鈴木さんは独立すると同時に、創業25年の別会社(アップルハウス)をM&Aしました。このとき、アップルハウスは毎月赤字を計上し、積みあがった債務に加えて、約20年間未納になっていた税金のほか、1億円に上る延滞税まであったそうです。

このときのことを「私の人生最大のリスクテイク」と鈴木さんは振り返ります。

なぜそんな赤字会社を買収したのかとよく言われますが、信頼できる方からアップルハウスの前社長を紹介してもらった縁があったこと、赤字とはいえ優良な顧客がいたこと、何よりそんな会社を立て直すことに私自身が大きな意義とやりがいを感じたからでした。

未納の税金は会社員時代の貯蓄や自宅売却で得たお金をすべて投じて完済。1年後には売上を前期の7倍に伸ばし、キャッシュフローを黒字化することができました。その後、延滞税1億円も無事払い終えています。

大きなリスクのあるチャレンジでしたが、多くのお客様や仲間を得ることができ、人生を次のステージへ引き上げることができました。リスクに見合ったリターンを得ることができたと思っています。

私ほど極端にリスクを取らなくてもいいですが、自分の未来をより良く変えたいと願うのなら、ある程度のリスクを負って、継続的に投資していくことは不可欠だと私は確信しています。

人には「現状維持バイアス」という、変化を避けたくなる心理作用があります。未経験のものへの変化を「安定損失」と認識し、現状に固執してしまうのです。

しかし、「やらない選択」によって時間という重要なリソースをムダ使いし、社会の変化に取り残され、世界的なインフレが進むことで寝かしっぱなしになっている銀行口座の貯蓄は実質的に目減りしてしまいます。

投資を考える際は、「やることによって失う損失・リスク」について考えることはもちろん重要ですが、「やらないことによる損失・リスク」にも目を向けて考えるべきではないでしょうか。

「投資家思考」まとめ

●投資のはじめ時は常に「今」。長く持てば持つほど投資のリスクは軽減していく。

●「投資」と「投機」は違う。短期で大きなリターンを狙う投機に対し、なるべくリスクを抑えながら長期保有することで安定的なリターンを得ることが投資。

●投資のリソースはお金だけではない。自分の時間、労力、信用すべてをどこに投下してリターンを得るかを常に考えよう。そうすることで決断の質が高まり、人生におけるリターンを効率的に得ることができる。

●金融投資する際は「自分で売買の判断をしないこと」「長く持ち続けたい資産を買うこと」を心がける。

●「投資をしなかったときの損失」を考え、「損失回避傾向」「現状維持バイアス」を回避せよ。

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