コロナ禍は私たちに働き方を大きく見直すきっかけを与えてくれました。
リモートワークの普及で働く場所を自由に選べるようになった方が多い一方、労働時間の長さはどうでしょう? コロナ前と変わらず、「1日8時間×週5勤務」を継続する組織が多いのでは?
今回は各国のさまざまな取り組み事例を検証。1週間に働く日数や1日の労働時間の変化が私たちにもたらす変化や、ある研究で明らかになった働きやすさを高める重要な指標についてご紹介します。今回は前編です。
国を挙げて週4日勤務にチャレンジ!(アイスランド)
コロナ以前から週4日勤務の試験導入を試みた事例はいくつかありましたが、2015年から国を挙げて取り組み出したのがアイスランドです。
国民のワークライフバランスを改善しようと、他に類を見ないほど大規模なスケールでトライアルがはじまりました。
2015~2019年に行なわれたこのトライアルでは、約2500人、つまり国の労働人口の1%がこの週4日勤務にチャレンジ。勤務日数は1日減りますが、もちろん収入は減額なしです。
対象はデスクワーカーのみならず、病院や警察署、デイケアなど対面で人と接する機会の多い職業も含まれたそう。
結果:時間に制限を設けることで生産性が向上
参加者の多くは、1日8時間×5日の40時間→35時間と、週あたり約5時間の労働時間削減に成功。1日あたりの労働時間は若干増えていますが、無駄な会議、シフトの見直しなど生産性を高める工夫が多く見られました。
つまり、時間に制限をかけることで生産性が自然と高まったのです。この感覚については実感したことがある方も多いのでは?
たとえば、1時間ほどで終わるようなレポートでも、さほど忙しくない時なら1日ダラダラと時間を費やしてしまうもの。必要以上に細部にこだわったり、同僚とのおしゃべりに花が咲いたりとつい時間を無駄にしがちです。
一方で、1日に6つのレポート提出、会議が2件、メールの返信などタスクが山積みになっている時だとどうでしょう? 無駄なことには時間をかけず、超集中モードでタスクをこなし、1日でかなりの仕事量をこなすことができるはず。
生産性以外のポジティブな変化
さらに、参加者の多くは、
「ストレスが減って仕事への活力が増加した」
「同僚からサポートを受けやすくなったと感じた」
「仕事のペースを能動的にコントロールできる感覚が得られるようになった」
など生産性向上以外のポジティブな変化を実感したそう。
この成功を受け、アイスランドでは労働人口の86%もの人がこの週4日勤務に移行済み・今後移予定。
もちろんすべての国で同じ成果が現れるとは言い切れませんが、個人、会社レベルで働き方の見直しに参考できるヒントがありそうです。
1日に働くのは「5時間のみ」(ドイツ)
週の勤務日数ではなく、1日の労働時間に着目したのがドイツのテック会社。
勤務時間は朝8時から昼の13時までの5時間のみ。通知はオフ、メールチェックは1日2回、会議は15分でアジェンダを明確にするなど、勤務時間中はなるべく集中力が散漫しないよう徹底して取り組みます。
13時の退勤後をどのように過ごすかはそれぞれ。趣味や家族との時間に費やしたり、新たなプロジェクトに取り組んだり、プライベートなToDoをこなす人もいるそう。
結果:社員・経営層・顧客の“三方よし”の働き方に
同社では3年半このモデルを継続した結果、社員、経営層双方に満足度が向上。
「顧客側の反応は?」と気になるところですが、同社のCEOのRheingans氏はこう述べています。
かつての働き方に戻りたいと思っている者は誰もいません。
これまでより少ない時間でも、顧客には十分満足いただける成果をお届けできることが証明できたのですから。
以前は複数のテックエージェンシーを率い、12~15時間と働き詰めだったRheingans氏。プライベートでは2児の父、人付き合いも多いタイプだったこともあり、やがてバーンアウト(燃え尽き症候群)気味になってしまったそう。
よりサステナブルな働き方はないかと模索し、タスクやスケジュールの見直しや改善を経て現在の「1日5時間モデル」を同社全体に普及させることに成功しました。
人の「集中可能時間」に着目したモデル
また、同氏が週4日勤務ではなく、1日の労働時間を短くしたのには理由があります。
あるイギリスの会社が約2000人の労働者に調査を行なったところ、1日に集中できる時間はたった3時間未満ということが明らかになりました。
職場では1日中PCに向かっているようで、実は多くの時間がSNSやテキストメッセージに費やされていたのです。
Rheingans氏は、これらデータを元に5時間以上効果的に働くのはほぼ不可能だと結論付け、1日の労働時間短縮モデルを採用しました。
勤務時間が少ない分コミュニケーション量の減少などいくつか課題にも直面していますが、同社では今後ともこの取り組みを継続する予定です。
「週5日勤務」「1日8時間労働」というこれまでの当り前を打破する欧州2国の働き方は、新たなメリットを生み出し、可能性をも広げています。
後編では、2国とは違った角度から働きやすさにアプローチしたアメリカのスタートアップをご紹介。また、働きやすさを高める指標が明らかになった研究とあわせて、人々にとっての「働きやすさとは?」を読み解きます。
▼後編を読む
Image: Getty Images, Shutterstock / Source: The Washington Post, SingularityHub, reasons to be cheerful