マネジメントやリーダーシップの在り方は時代と共に変化しています。でも、変わらないことは「人を動かして事業を前に進めること」。
この「ズルいマネジメント」特集では、そのために必要なさまざまな裏技や新しいマネジメントスタイルについて、実例を交えながらご紹介していきます。
第1回は、『ダークサイド・スキル 本当に戦えるリーダーになる7つの裏技』の著者で経営共創基盤の共同経営者、木村尚敬さんにインタビュー。ダークサイド・スキルとは何かということに迫った上編に続き、今回はその具体的な「7つの裏技」について解説します。今回は中編です。
▼上編はこちら
上編では、ロジカルシンキング(論理的思考力)や財務・会計知識などの分かりやすいスキルであるブライトサイド・スキルに対し、人の心をつかみ、ドロドロとした部分も飲み込んででも組織を前に動かしていく、そんな技術をダークサイド・スキルとして紹介しました。
なかでも、木村さんは以下の「7つの裏技」を代表的なダークサイド・スキルと規定しています。今回はそれぞれについて紹介していきます。
思うように上司を操れ
組織を思うように動かすスキル。
現場としては自部門の業績が悪かったとしても、やはり現状肯定バイアスがかかってしまうため、予算などを「盛って」報告しがち。
しかし、会社全体の経営状況を俯瞰して見たときに「自部門の事業は現状延長のままではまずく、早期に何がしかドラスティックな手を打ったほうが傷口が浅くて済む」と考えたのなら、それは正直に申告すべきでしょう。
ただし、バカ正直にみんなが参加する経営会議のような場で話すということではない、と木村さん。
冷静に戦局を分析し、適切なタイミングで「ダメです」と言えるかどうかがカギ。会議などの表の場ではファイティングポーズを崩さず、裏で社長に耳打ちするような、そんなしたたかさがミドルリーダーには必要です。
長い時間軸で考えたときにどうやって会社が生き残るか、勝ち抜いていくかを考えた上での冷静なパス(報告)を、正しいタイミングでトップに出すということです。
部分最適ではなく、全体最適につながる決断力と勇気が必要です。
KYな奴を優先しろ
日本企業にありがちな「あうんの呼吸」はコミュニケーションコストが低くて済む反面、組織の同質化が進むので新しい発想も出てこず、イノベーションが生まれません。
多様性とは、何も外国人や女性の活躍ばかりを指す言葉ではありません。組織の中にどれだけ堂々と他と違った意見を言う人間がいるかどうか。そして、そうした人材をどれだけ許容できるかということだと考えています。
KYな発言をどれだけ拾い、どれだけ受け入れることができるのか。そうした器の大きさを持つとともに、自分自身も時にはKYな発言をしなくてはいけないこともあります。
自分がそうしたときも上司に受け入れてもらえるようなCND(調整・根回し・段取り)を事前にしておくこと、これもダークサイド・スキルです。
「使える奴」を手なずけろ
使えるものはなんでも使う、そういう他者の力をあてにするスキル。言うなれば「いかにして他人のスキルをパクる」か。部下が自分にないものを持っていたら、それを素直に認めて、さらに引き上げて伸ばすということです。
なんでもできる人がリーダーになるわけではありません。自分に足りないところを冷静に見極めて、それを補ってくれる人を集め、チームとしてのパフォーマンスを高めるのがリーダーです。
そのためには、普段から周りの人間をよく観察し、どんな性格でどんなスキルを持っているのか、よく把握しておくことが必須です。社内外に自分なりのネットワークを張り巡らせるために、たまには部下と飲みにいったりランチに行ったりすることも有用でしょう。
もちろん飲むのが苦手な相手を無理に誘えということではありません。相手をよく見極めて、もっとも効果的なコミュニケーション方法を選択し、部下への理解と信頼を深めていくのです。
堂々と嫌われろ
意思決定というのは、完全に情報がそろって、確実にこれが正解だと思って下すようなものではありません。6、7割の情報がそろったら、ある程度「経験」と「勘」を働かせて物事を決めるしかない、と木村さんは語ります。
たとえ正しい判断だったとしても、意思決定をする側は常に嫌われるリスクを持っています。全体最適の判断を下すと、一部で割を食う人たちが出るのは避けられないことです。
それでも、勇気をもって正しい判断を下す。その場その瞬間では周りから厭われる存在になったとしても、です。私は、これが最も重要なダークサイド・スキルだと考えています。
煩悩に溺れず、欲に溺れろ
決断を下すとき、その最後の拠り所となるのは自分の価値観であり、生き様です。己を知ることなくしてブレない意思決定をすることはできない、と木村さんは語ります。
自分の奥底にある原点、価値観とは、自分は何によって動機づけられているか、ということ。心の奥底には「もっとお金が欲しい」とか「もっと出世したい」というような下世話な欲望、つまり煩悩もあるはず。
しかし、そうした自分の煩悩をしっかり自覚しつつも、それが悪い方向に向かわないようコントロールする。その上で「自分はこうありたい」という前向きな動機付けを忘れずに行動すること。これも非常に重要なダークサイド・スキルです。
踏み絵から逃げるな
踏み絵というのは、自分の信念が試される瞬間のこと。部下に対して「自分はこういう人間だ」と伝えている中で、いざそうした信念が試される瞬間がきたときに自分の価値観にもとづいた判断を下せるかどうか、ということです。
私の経験上、この踏み絵はお客さんとモメたときに起きることが多いです。それも、こちらの非はあまりなく、相手が無理難題をふっかけてきたようなときです。
簡単なのは「ごめんなさい」と謝ってなし崩しにしてしまうことですが、そこで自分を貫くことができるかどうか。
これが部下の信頼を勝ち取れるかどうかの境目になります。自分たちのリーダーはリスクをとって決断できる人なのかどうか、部下は常に観察しているのです。
部下に使われて、使いこなせ
組織を動かすためには自分なりのネットワークを社内に持っておく必要があります。価値観や改革の方向性を共有できる仲間を増やすためには、「自分の時間の7割を部下に使う」くらいの気持ちでいることが大事、と木村さんは語ります。
7割使うつもりでいて、実際は5割くらいに落ち着くとは思いますが、要はそれだけ部下に対して目を向けることです。そうすることで部下も「上司は自分を気にかけてくれている」という信頼につながり、いざというときに動いてくれる仲間となります。
そのためには、とにかく部下の話を聞く姿勢を持つことです。部下が何かの課題を抱えていて、その答えを自分が持っていたとしても、まずは部下に自分で考えさせる、話させる。
そうすることで部下も成長しますし、上司への信頼も高まり、現場の情報も正しく上がってくるようになります。
これら「7つの裏技」を使いこなし、ダークサイド・スキルを駆使するリーダーになるために、日々どのような意識で仕事をするべきなのでしょうか?
「ダークサイド・スキルの身に付け方」について、下編でご紹介します。
▼下編はこちら
木村尚敬(きむら・なおたか)
経営共創基盤パートナー取締役マネージングディレクター。グロービス経営大学院教授。モルテン社外取締役。慶應義塾大学経済学部卒。ベンチャー企業経営の後、日本NCR、タワーズペリン、ADLにおいて事業戦略策定や経営管理体制の構築等の案件に従事。経営共創基盤参画後は製造業を中心に全社経営改革や事業強化など様々なステージにおける戦略策定と実行支援を推進。著書に『ダークサイド・スキル 本当に戦えるリーダーになる7つの裏技』(日本経済新聞出版)など。
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