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知的生産の技術書054~056「ノート術いろいろ1」


倉下忠憲

今回は054から056まで。いわゆるノート術の本たちです。

『情報は1冊のノートにまとめなさい』

2000年代における日本の「ノート術」ブームのきっかけを作った一冊言っても過言ではないでしょう。

本書の主張は非常にシンプルです。

  • なぜ、情報整理や知的生産がうまく続かないのか?
  • それはシステムが複雑すぎるからである
  • よって単純なシステムを用いれば、続けることができる。

こういう話です。非常にごもっともな話で、たしかに私たちは「情報整理」のシステムを必要以上に難しく構築しがちです。分類のこだわったり、メタ情報をたくさん付与したりと、さんざん手間をかけてしまうのです。

アナログツールの場合、その手間はすべて「手を動かすこと」につながってきます。当然、どこかの時点でそれが嫌になってしまう可能性は高いでしょう。ルールをシンプルにすれば、覚えなければならないことも減りますし、手を動かす量も最低限で済みます。

よって、一冊のノートに何も分類せずに時系列で書き込む、という単純なルールは間違いなく記述の継続を助けてくれるでしょう。

一方で、そうして書き留めた情報を後から「活用」するためには、本書が言うように自分で索引を作る必要があります。こればかりは自分で手を動かすしかありません。しかし、この作業はなんら生産的ではないので(≒生産的とは感じられないので)、なかなか継続できないものです。

よって本書が示す方法は、記録をただ続けていくことに関しては非常に有効な反面、そうして書き終えた記述を後から(それもかなり時間が経ってから)活用するとなると、難しい側面が出てきてしまう点には注意が必要です。

『「結果を出す人」はノートに何を書いているのか』

『情報は1冊のノートにまとめなさい』に比べると、本書はビジネス実務寄りの内容になっています。

大きな趣旨は二つ。一つは、ノートに自分の経験を記録していこうという点。自分の経験はいくらググっても見つけられないものであり、自分自身で記録をとらないとどこにも残らないので、積極的に記録し、経験を活かせるようにしよう、という指針です。

もう一つは、3冊ノート術。メモノート、母艦ノート、スケジュールノートと用途に合わせて三冊のノートを並行して使っていきましょう、という指針です。

『情報は1冊のノートにまとめなさい』と読み比べると、すでにつっこみどころが発生していますね。「一冊なのか、三冊なのか、どっちやねん」と。

極論すれば、「どっちでもいい」のです。二人の人間がいれば、二つのノートの使い方がありえます。そして、それぞれにおいて「成果」を挙げられるのです。

一応補足しておくと、一冊にまとめる場合は記述する際の手間は極小で済みますが、その分あとから索引作りを行わなければなりません。一方で、三冊に分冊する場合は、記述する際の手間が発生しますが、その分あとから利用する際にはそのままで使えます。情報がノートで切り分けられているからです。

ようするに、手間をどのタイミングで発生させているかに違いがあるわけです。

もう一点付け加えれば、知的生産は「最初にはよく目的がわからない」という工程を辿りがちで、ビジネス実務は「最初に目的をはっきりさせる」という工程を辿りがち、という違いもあります。前者の場合は、目的別にノートを分冊するのは難しいですが、後者の場合は、それがやりやすい、という違いがあるわけです。

以上のように、二冊の本を読んだだけでもノート術に「正解」などないことがわかります。「正解」を知ることではなく、自分なりの「最適解」を作っていくことが大切です。

『モレスキン 「伝説のノート」活用術』

タイトルは「モレスキン」という特定のノート帳の名前を冠していますが、実際は汎用的なノート術が語られている一冊です。

ユビキタス・キャプチャなど、具体的なノーティングの技法がたくさん紹介されていますが、個人的に注目したいのはノートのDIYカスタマイズです。アナログのノートは、切ったり、貼ったり、折ったり、付けたりが可能です。自分が使いやすいように形を変えられるのです。

一般的にこうしたノートは「ハードウェア」であり、デジタルノートは「ソフトウェア」なわけですが、案外後者の方がカスタマイズ(それも根本的なカスタマイズ)が難しかったりするのが現状です。ソフトウェアの方が硬く、ハードウェアの方が柔らかいのです。不思議ですね。

上でも述べたようにノート術に正解はありません。自分なりの最適解を作っていくのが王道であります。であれば、ノートそのものも自分なりにカスタマイズできた方が良いでしょう。むしろ、それができるのが(≒そうしたカスタマイズを受け止めてくれるのが)「ノート」という存在なのだと思います。

モレスキンに限らず、一冊ノートは自由に使っていけます。書く内容にせよ、ノートの形にせよです。その認識を持つことが、「ノートを使う」上で一番大切なことかもしれません。

知的生産の技術書100選 連載一覧

▼編集後記:
倉下忠憲


当たり前ですが、上記は基本的にアナログツールの「ノート術」です。2022年の現代ではデジタルツールの「ノート術」も語られる必要があるでしょう。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中