どんなに良い大学を卒業しても、どれだけ社会的に成功を収めてお金を稼いでも幸せだと感じられないー。

隣の芝は青く見える、とはよく言ったものですが、私たちは身の回りにあるもの、また今の自分が置かれている状況に感謝することをつい忘れてしまいがち。

最近だとSNS疲れという言葉も生まれるほど、すぐに他人と比較したり、周りから自分がどう思われているかを気にしすぎたり…。

今日はイェール大学史上最も人気のある心理学の授業から、人生を豊かに、そして幸せに過ごすためのヒントをお伝えします。

良い気分が長続きしない、残念な理由

The Atlanticが伝えたところ、イェール大学「心理学と幸せな人生」の授業を担当しているサントス教授によれば、

私たち人間は生まれながらにして大きく分けて2つのバイアスを抱えています。

そのバイアスが人生で起こる素晴らしい出来事に対して喜び、そして感謝する気持ちを継続させることを難しくさせているのです。

この2つのメインバイアスについて、よく理解し、その上で日々どのようなことに気をつけて過ごすべきかを考えると良いのだそう。

最初のバイアスは “私たちの脳は何度も繰り返して起こることに順応してしまう癖がある” こと。

サントス教授によれば、これは心理学用語では"快楽順応"と呼ばれ、何か素晴らしい出来事が起こったときには最高な気分になるのに、少し時間が経つにつれてその状態に慣れてしまい、最初の頃に感じていた高揚感がなくなってしまう、というもの。

これは誰でも経験があるのではないでしょうか。

例えば、新しく家や車を購入したとき、イェール大学のような名門大学の受験に合格したとき、その瞬間は気分が盛り上がり嬉しい気持ちでいっぱいになりますが、しばらくするとその気分は徐々に薄れていき、その状態を当たり前のものだと感じてしまうようになるのです。

そうなると気分が満たされず、他人の持ちものやステータスと比較して、落ち込んだりしてしまいますよね。

時間とお金は “長持ちしないもの”に投資する

Image:Shutterstock
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では、いったいこのバイアスに対して私たちはどのように対処したらよいのでしょうか?

サントス教授によると、長く持たないものにお金と時間を投資することが有効だと言います。

ある有名な消費アドバイザーは形のあるものではなく経験を買いなさい、とも言っていますが、例えばまだ訪れたことのないような場所へ1週間旅行で出かけるとします。

旅行自体は1週間で終わってしまうかもしれませんが、そこで体験したことや思い出はずっと記憶に残ります。

一方で高級な車を買った場合はどうでしょう?

2年もすれば、その車を購入した頃のような興奮を得ることはできずに、より高級な車が欲しくなったり、友人が新しく買い換えた車に嫉妬したりしてしまうかもしれません。

今あるものに感謝の気持ちを持つ

また、今自分の置かれている立場や持っているものに感謝する時間をつくることも非常に効果的です。

例えば、何か身の回りで感謝したいことを日記に書き綴る。それが難しければ1日のスケジュールの中でほんの少しでもいいので感謝する時間をつくるだけでもちょっとした変化があるはず。

その他、熱いシャワーを浴びてお風呂にゆっくりつかれる、今晩食べるものを自由に選ぶことができるなど、どれもそんな当たり前のこと?と思いがちですが、そんな当たり前に恵まれていない人も大勢います。

目まぐるしく過ぎていく毎日だからこそ、目の前の日常にちょっと意識を集中させるだけで毎日の幸福度がぐっと上がるはずですよ。

他人と比較しない、大切なのは “自分基準”

Image:Shutterstock
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2つ目のバイアスは “私たちはどうしても他人と比較してしまいがち” だということです。

自分にとって良いかどうか、満たされている状況かどうか? ではなく、つい他人が持つものと比較して自分はどうか、という判断軸で捉えてしまうから。

サントス教授はオリンピック選手メダリストの幸福度に着目した研究結果を例に挙げ、銀メダルを獲得した選手よりも銅メダルを獲得した選手のほうが幸福度が高い状態にある点を指摘しています。

銀メダルをとった選手は、恐らくあと1歩で手が届かなかった金メダルのことに執着しています。

それに対して銅メダルをとった選手は、自分があと1つ順位が下がっていたらメダルをとれていなかったかもしれない、と感じています。そのため今手にしている結果に感謝できているのではないかと考えられるのです。

サントス教授は以下のようにも述べています。

私たちはどうしてもその時々に最も目立っている比較基準に注目しがちで、さらには自分たちよりも良い結果を出しているものに着目しがちなのです。

もし、なかったら?をイメージしてみる

しかし、このバイアスにもほんの少しの工夫で対処できることがあります。

それは自分が当たり前だと思っているものがない状況に半ば強制的に身を置いてみること。

例えば、(現実的には難しいですが)蒸し暑い真夏の夜にエアコンのつけずに過ごしてみる日を数日つくってみるとします。

そうすると次の日からエアコンのある生活がどれほど快適なものか、有難みを身にしみて実感できるでしょう。

もしくは、「当たり前だと思っているものが、もしなかったらどうなっているだろう?」とイメージしてみるだけでも効果的です。

今住んでいるこの家がなかったら? まず自分はどうするだろう? 家族や友達、誰に頼ることができるだろうか? と考えてみてください。

サントス教授曰く、このネガティブヴィジュアライゼーションによって、今ある身の回りのものに感謝する念が生まれるとのことです。

毎日を幸せに過ごすためのToDoリスト

感覚の慣れや他人との比較など、私たちが持つ様々なバイアスに対して、仕方ないと諦めるのは簡単です。しかし、誰でもすぐに実行できる工夫一つで普段見える景色に大きな変化をもたらすかもしれません。

それが、すぐに実行できるこちらの「幸せな人生のためのTO DOリスト」す。

・1日の中で少し手を止めて、普段から当たり前だと思っているモノ、コト、人に対して感謝する気持ちを持つ時間をつくる

・また、そのことについて少し書き出して日記をつけてみる

・モノではなくコト、経験に対して時間とお金を投資する

(例:思い出に残るような場所での食事や訪れたことのない場所へ旅行など)

・今自分に置かれている環境に対して、もしこの人がいなかったら?これがなかったら?と想像してみる

サントス教授が教えてくれたこれらのアドバイスは、ここ数十年の研究の積み重ねにより実証されているもの。しかし、実はこれらは大昔に数多くの著名な哲学者たちが探究して突き止めた幸せの定義と重なる部分が非常に多いのです。

その時代によって地位や名声、成功者の定義付けは、少し異なるかもしれませんが、どうやら人間が幸せになるために必要なことは時代を経ても変わらないようです。

TO DOリストの項目は、どれも簡単に実行できるものばかり。毎日の生活に追われて、いまいち幸せが感じられないなら、是非一度試してみるのはいかがでしょう。

――2019年9月10日の記事を再編集のうえ、再掲しています。

執筆:saori

Source: The Atlantic