「いい人」「アメリカの理想の父親」と評判のトム・ハンクス。

しかし、にこやかな人だと仕事を持ち込んだら、ハッキリ「NO」と言われて面食らってしまうかも。

実は、トム・ハンクスは「断れる人」で、それがハリウッドで成功し、「いい人」の評判を作ってきた秘訣なのだそう。

というわけで、今回はトム・ハンクスのフィルモグラフィーから、彼のキャリアや成功の秘訣を学んでいこうと思います。

コメディ映画からドラマ映画俳優へ

トム・ハンクスのイメージは「いい人」です。それに「大御所」で「出演作にハズレなし」も加わるでしょう。

しかし、思い返してみれば80年代のトム・ハンクスはコメディ俳優のイメージが強かったんですよね。

代表作は、『ビッグ』(1988年)『ターナー&フーチ/すてきな相棒』(1989年)『プリティ・リーグ』(1992年)『めぐり逢えたら』(1993年)あたりでしょうか。

「アメリカの恋人」と言われたメグ・ライアンと3度共演し、ロマンティック・コメディでも確固たる地位を築いていました。

その後、アカデミー賞主演男優賞を受賞した『フィラデルフィア』(1993年)で方向性の転機を迎えます。

本作は、ゲイとエイズに対する偏見を法廷で覆すシリアスなヒューマンドラマで、トム・ハンクスはドラマ俳優としての新境地を開拓します。

翌年は、後世に語り継がれることとなった『フォレスト・ガンプ/一期一会』( 1994年)。

それから『アポロ13』(1995年)、『プライベート・ライアン』(1998年)、『グリーンマイル』(1999年)、『キャスト・アウェイ』(2000年)と、トム・ハンクスを名前だけで観客を呼べる「Aリストスター」に押し上げた作品に、立て続けに出演。

この時期をターニングポイントとして、トム・ハンクスは、コメディ俳優だったころの面影を「人情味あふれる側面」として残しつつ、見応えのある演技をするようになりました。

では、彼の中で何が変化したのでしょう?

「NO」で仕事を選ぶ

INC.COMの動画で、トム・ハンクスが以下のように言っています。

「NO」ということで納得できる仕事を得られます。

「YES」と言っていたら(与えられた)仕事をするだけなんです。「NO」ということで自分が本当に伝えたいストーリーや演じたいキャラクターを選ぶことができました。

トム・ハンクスは、何に対してもYESとは言わず、世間に向けての「いい人像」を築くためにNOといいながら出演作品を厳選してきました

ちなみに、Looperの記事によると、彼がイメージを描くのは学生時代からだったようです。俳優としてキャリアをスタートさせたいと考えていたトムは、クラスメイトの親戚が、アカデミー賞受賞監督のジョージ・ロイ・ヒルであることを知りました。

そこでトムは、手紙を書きました。

その内容は、カフェにいるトムを「見つけた」ヒルが大役をオファーしてきたり、バスの中で偶然知り合った二人は友達になって仕事のパートナーになったりする想像の話だったのです。

ヒルはこの手紙を好意的に受け取り、トムがホッピングで通学途中にヒルが車でぶつかって「見つける」かもしれない、といった返事を出しています。

このように、トム・ハンクスは俳優になる前から(かなり具体的に。しかも人を巻き込んで)自分のキャリアイメージを描きながら、実際に多くのオファーを受ける成功者になりました。

「いい人」という評判を得るための見立ても、これまでの出演作と今の評判を見ればわかりますよね。

仕事選びの「3つのE」

では、トム・ハンクスは何を基準に作品を選んできたのでしょう? 

OPRAH.COMによると、education(教育)entertain(娯楽)enlighten(啓発)という「3つのE」を大切にしているのだそう。

娯楽でなかったら誰も観ない。

しかし、人は常に知的好奇心に溢れているので、教育的である必要があります。たとえば、月に行くのは難しいのかとか、オマハビーチに行ったらどんな怖いことが起こるのかとか、です。

そして、啓発的でもあってほしい。

人は映画の中で起こるとんでもないことと、日常で発生するちょっとしたことを関連づけて、「怖い思いをしたらどうしたらいいのだろう」とか「家族に最後の別れを伝えるってどんな気持ちだろう」とか想像しますよね。

こういった映画が商業のエンジンであり、人々が映画館を出たあとの選択によって現実社会に影響を与えることができると思い出させてくれるのです。

OPRAH.COMより一部抜粋

なりたいイメージから逆算すれば、どんな条件を満たした作品を選ぶべきかがはっきりするのかもしれません。トム・ハンクスの場合は、教育的かつ啓発的な娯楽ということなのでしょう。

ちなみに、トム・ハンクスのように次から次へとオファーがくる俳優なら「どういう作品にでるべきか」という考え方もできますが、あまり選り好みできない場合は「どういう仕事を受けないか」「どういう人と一緒に仕事をしないか」という方向で考えるのもありでしょう。

「NO」と言うのは勇気が必要ですが、なりたい自分のイメージと現状が乖離していたら、一歩引いて考えて軌道修正してみてはいかがでしょうか。

迷ったら、『フィラデルフィア』を中心に、80〜90年代のコメディ俳優からドラマ俳優に転身した頃のトム・ハンクスの作品を観てみてください。「NO」の重要性が分かりそうです。

Source: INC.COM, Looper, OPRAH.COM, cheetsheet, ScreenRant