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2023年1月に読んでおもしろかった6冊の本と、1本の映画と、1本の展覧会

 

月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2023年1月版です。新刊の作成がはじまりまして、今月に読めたのは20冊ぐらいでした。

 

 

ザ・フォーミュラ 科学が解き明かした「成功の普遍的法則」

 

ネットワーク科学の創始者として知られるバラバシ先生が、「社会的に成功している人はどんな環境要因があるの?」ってポイントを、わかりやすく噛み砕いてくれた本。まー、通常の自己啓発書よりは硬派な本なので、「これをやれば成功だ!」みたいなポイントがまとまってるわけでもないんですけど、ここで紹介される「5つの法則」をじっくり読んでいけば、現実生活に活かせる教訓がいくらでも見つかるはず。

 

サブタイトルが怪しげなので引いちゃう人もいるでしょうが、バラバシ先生はちゃんとした人なので、安心してお読みください。

 

 

 

誰よりも、うまく書く

 

アメリカの伝説的なジャーナリストであるウィリアム・ジンサー先生が、半世紀前に書いた文章指南。著者は「文章を書くのは苦痛だ!」「物書きはひたすら孤独だ!」「創作は芸術でなく技能だ!(だから、インスピレーションがわかないときも、スケジュールを決めて必ず書け!)」って考え方の持ち主で、個人的にめっちゃ共感しました。スティーブン・キング先生も、「書くことについて」で似たようなことを言ってましたな。

 

ちなみに、ジンサー先生の指南はシンプルで、「簡潔で明晰な文章を書け!」「とにかく不要な単語を省け!」「雰囲気だけの言葉を使うな!」ってのが基本になってます。これは類書でもよく指摘される点ですけど、実際にできている人ってほぼいないし、そもそも本書がジンサー先生の主張の実践になってるんで、説得力があるんだよなぁ……。

 

 

 

生命を守るしくみ オートファジー 老化、寿命、病気を左右する精巧なメカニズム

 

アンチエイジングには欠かせない「オートファジー」を、そもそもの歴史から説き起こして説明しつつ、著者自身の体験をベースに「科学っておもしろいなー」って気分にさせてくれる良い本。実用的な側面への言及も多く、オートファジーを応用した薬や健康食品、美容アイテムの可能性まで射程を伸ばしていて、とても勉強になりました。オートファジーについてはよくわからん情報も出回っているので、本書を押さえとくと、謎の健康食品とかにダマされずにすむかもしれません。

 

 

 

人はなぜ物を欲しがるのか

 

「所有」という大きなテーマを、認知科学や行動経済学などの視点から読み解いていく本。モノを買っても幸福度は上がりにくいってのはよく聞く話ですけど、この問題を、人類が所有欲を持つようになった起源から解き明かしてくれていて説得力バツグンであります。

 

もっとも、その処方箋はシンプルで、要は「モノではなく体験に金を使おう!」「SNSなんて止めてしまえ!」「いまの持ち物の重要性に思いをはせろ!」という感じでして、このブログをお読みの方にはおなじみの視点ばかりじゃないでしょう。しかし、わかっていてもできないのが「所有問題」の難しさってことで、そのあたりを痛感するために読んでみるのがおすすめです。

 

 

 

市民的抵抗:非暴力が社会を変える

 

「3.5%が非暴力で立ち上がれば、社会は変わる!」というパンチラインで有名な、ハーバードのエリカ・チェノウェス先生が手がけた一冊。暴力を使わない革命の歴史と、その成功率を高める方法などを、データにもとづいて教えてくれていて有用でした。

 

めちゃくちゃ判断が難しい統計分析にチャレンジしていて、正直「これは批判されるだろうなー」ってポイントも多いんですけど(揚げ足を取りやすいとこが多いので)、おもしろい研究をやってくださっているのは間違いないので、応援したいですねぇ。

 

 

 

システム・エラー社会 「最適化」至上主義の罠

 

世間は「最適化、最適化!」ってうるさいけど、それによって皆の幸福が損なわれているケースがめちゃくちゃあるよねーっておんを、多様な事例とデータをもとに描き出していく本。「ユア・タイム」でも、個人における効率化の欠点を強調したんですけど、こちらはもっとスケールがデカくて、「人類の繁栄と幸福の両立」というとこまで射程が広がっております。

 

いろんな論点を持つ本ですが、個人的には「現代では良かれ悪しかれエンジニアが未来を決めているから、彼ら彼女らのマインドセットをもっと理解しようぜ!」(意訳)ってのは、めちゃくちゃ的を射た提案だと思いました。

 

 

 

ある男

 

11月に紹介した小説「ある男」の映画版。「アイデンティティっていろんな物語からできていて、それが救いになることもあれば、呪いにもなり得るよねー」という原作のエッセンスを、論理的な画作りと、抑制が効いた脚本と、達者な演技陣で描ききっててすごい。原作と比べると、映画版は「人生の硬直性」がより強調された作りになっていて、人生もすでに折返しを過ぎた身としては、しみじみさせられました。おすすめ。

 

 

 

 

大竹伸朗展

 

16年前の大回顧展に行ったときは、あまりの情報量の多さに作者のパワーのみ感じて終わったのですが、今回は私が歳を取ったおかげもあってか、すべての作品が発するエモさにやられてしまい、ちょっと泣きそうになりました。

 

大竹さんの作品群は、普段は無視されている脳内の記憶処理プロセスを、そのまま取り出して外部に見せているようなところがあるんですよね。もちろん、そこに展開される記憶は大竹さん独自のデータなんだけど、なにせ作品の数とパターンが膨大なのと、それぞれの抽象化レベルが違うおかげで、見てるうちに自分の記憶処理の起点みたいなとこにアクセスしてる気分になるんですよねぇ。うーん、エモい。

 

さらに言えば、多様なデータを無造作に重ねていく作品づくりのせいで、大半のエリアは色あせてカオスになりつつも、あるところでは小さな秩序が形作られていくあたりが、「これが人類の普遍的な営みだよなー」とか思わされて、またぐっときました。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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