道なき道を拓き、未だ見ぬ新しい価値を世に送り出す人「起業家」。未来に向かって挑むその原動力は? 仕事における哲学は…? 時代をリードする起業家へのインタビュー『仕事論。』シリーズ。

今回は、株式会社スピークバディの代表・立石剛史さんにインタビュー。AI英会話アプリ「スピークバディ」の開発秘話や、今後の展望について伺いました。

スピークバディを開発した発端は、僕の“わがまま力”

──起業あるいは事業をスタートした経緯を教えてください。

きっかけは、20代で大病をしたことです。結果的に手術で完治しましたが、死に至る可能性もありました。

そのとき「このまま、おしまいかな」と人生を振り返ってみて、「この世の中に自分がいた意味があったか?」という自問に、はっきり「イエス」と答えられなかったんです。

以来、手術で生き延びてから、人の役に立つサービスをつくりたいと、アイデアがあふれ出るようになりました。でも、当時働いていた金融機関では、組織の中で新規事業を立ち上げるのはかなり難しい。

そこで、1年半の香港駐在の後、帰国したタイミングで会社を退職。事業内容は固まっていなかったけれど、会社を設立しました。それが、2013年のことです。

──事業アイデアが溢れ出たとおっしゃいましたが、そもそも「事業アイデアが思いつかない」という声もよく聞きます。立石さんにはその壁はなかったんですか?

なかったですね。僕は、ビジョンとは“わがまま力”だと思います。

誰でもプライベートなことなら、ビジョンが容易く出ますよね。たとえば、自分の部屋にこんなインテリアを置きたい、こんな壁紙にしたいなど…。でも、会社のことだと「わがままを言っていいだろうか」と自分を制して、結果、ビジョンが描けない。

世界をこうしたい」「こうなっていないのは嫌だ!」っていうわがままな怒り、キレイな言葉でいうと義憤ですが、それを世界規模に広げれば事業のアイデアにつながると思います。

──そんなアイデアの中でも、AIを使った英会話にフォーカスされたのはなぜですか?

自分が「やりたい」という気持ちを重視して考えていった結果、自分が一番苦しんだテーマに行き着いたんです。

僕は英語が全然できないのに外資系の企業に入社し、英語の習得に大変な苦労をしました。その経験から、同じように苦労している人を助けたいという気持ちもあったんです。

それに、人のためにと言いながら、AIを使った英会話は自分が欲しかったものでもあります。

というのも、病気で休職していたときに、ただ休んでいるのが歯痒く、周囲の反対を押し切って短期の語学留学をしたんですが、すぐに英語が話せるようにはならず苦労しました。高額な留学費用を払って、そのうえ話し相手を見つける必要もあり「なぜこんなに苦労しなければならないのか!」と憤ったんです。「自宅にいながらロボットと英語で話せないのか!」と。

この“わがままな怒り”が発端になって、AI英会話に賭けようと思い至りました。でも、提案した当時は、周囲の9割に反対されましたね

2015年当時はAlexaやSiriなどのAI音声認識を活用している人はあまりおらず、「音声認識は使えない」という共通認識だったんです。

そんな時代に「AI英会話」をつくろうだなんて、反対されるのは自分でも納得なのですが…。でも、そろそろ実現できるのではないかと思いはじめていました。

──AIに対する先見の明は、ご自身のリサーチから生まれたものですか?

自分でもリサーチはしていましたが、金融機関で働いていたときにIT業界担当だったのでAIの進化のスピード感はわかっていました。

特に、音声認識は突出して進化が早かった。それがわかっていたので、きっと時代が追いついてきてくれるはずという“読み”はあったかもしれません。

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