息子がまだ幼かったころ、強い感情をまだうまくコントロールできない息子をなだめることに、私は一日の大半を費やしていました。

毎日欠かさずズボンを履かなければならないことに怒りを爆発させ、寝る時間が来るとベッドに入らなければならないことに涙を流し、毎食アイスクリームが食べられないことをすごくイヤがっていたのです。

大人に言わせれば、こうした子どもの反応はいささかオーバーです。

けれども実は、大人も、子どもとさほど違いません。大人だって、劣悪な労働環境に置かれたときには怒りと戦い、ひどい別れ方をしたときは悲しみに暮れ、不確かな未来を前にしたときには不安に苛まれます。

ただ、大人である以上、小さな子どものように振る舞うわけにはいきません。だから大人は、こうした感情を押さえ込もうとします。

けれども、それが仇になって、逆に感情を爆発させたり、くよくよ考え込んだり、眠れない夜に悩まされたりすることもあります。

感情ははねつけるものではなく、受け入れるもの

感情は、非合理的・非論理的で未成熟に見えるかもしれませんし、感情によって生じる苦痛や不快感を避けたいと思うかもしれませんが、感情とは現実のものであり、適切な対処が必要です。

「感情と争えば、身動きが取れなくなってしまいます。自分自身を部分的に否定しているからです」

そう話すのは、精神科医のAlex Wills氏です。同氏は、『Give a F*ck, Actually: Reclaim Yourself With the 5 Steps of Radical Emotional Acceptance(感情を根源的に受け入れ、自分を取り戻す5つのステップ)』の著者でもあります。

不快な感情をはねつけるのではなく、それを受け入れて、そこから学ぶ方法を見つけるよう、Wills氏は勧めています。

「すべての感情、特につらい感情や不快な感情を、何か目的があるもの、何かいいところがあるものとして受け入れられれば、その感情が実際には自分を助けようとしていることがわかります」と、Wills氏は言っています。

「どんなつらい感情にも裏面があります」。その裏面には、願望が潜んでいることが多いのです。

たとえば、関係が破局した後に現れるつらい感情はしばしば、親密さや信頼、つながり、仲間意識を求める願望の裏返しです。

Wills氏の経験では、「感情の強さは、自身のニーズを満たしたいという、その人の願望の強さと比例している」そうです。

感情を受け入れる「5つのステージ」

Wills氏はよく患者に、強い感情の対処には5つのステージがあると説明しています。

1.「心の盾を下ろす」

第1ステージは、「心の盾を下ろす」です。同氏はそれを、「『そんなこと知るか!(I don’t give a fuck!)』という盾を下ろすこと」だと、独特の言い回しで言っています。

「そんなことどうでもいい!」と吐き捨てる前に、本心ではそのことを気にしているという事実を素直に認めるよう、アドバイスしているのです。

また、「『そんなこと知るか!』という盾を下ろすこと」は、心の奥底にあるつらい感情を避けるための、あなたなりの「ごまかし戦略」を知ることにもつながります。たとえば、冗談を言う、といった戦略です。

もし今度、何か感情が動揺する事態に見舞われたときには、Wills氏のアドバイス通り、少し時間を取って、自分の心の反応のすべてを観察してみましょう。

本当は動揺しているのに、とっさに冗談が口をついて出てその場を取り繕ってしまったのなら、ユーモアでごまかしているわけです。

2.「その感情に名前をつける」

心の奥底にあるつらい感情と向き合わず、それをごまかそうとしている自分に気づけるようになったら、次は第2ステージ「その感情に名前をつける」です。

簡単そうに思えますが、「そのとき抱いた感情がネガティブに思えると、つい私たちは早送りボタンを押したくなってしまいます」と、Wills氏は前述した著書の中で書いています。

でも、そうした早送りをせず、むしろスローダウンするよう、Wills氏は勧めています。その感情がどんなにささいなものに思えても、筋が通っていない気がしても、その感情をじっくり考察したほうがいいというのです。

なぜならその感情は、あなたが本当に気にかけていることを教えようとしているからです。

もしかするとそれは、大好きなアイスクリームのフレーバーが製造中止になってむしゃくしゃするといった、小さなことかもしれません。あるいは、パートナーと喧嘩するたびに募らせてきた、捨てられることへの不安といった、大きなことかもしれません。

いずれにせよ、こうした感情はどれも、あなたの心の中にある期待や不安を知るための窓なのです。

3.「感情に耳を傾ける」

感情に名前をつけたら、次は第3ステージ「感情に耳を傾ける」です。

大好きなアイスクリームのフレーバーは、無邪気で平和な子どものころの楽しい思い出を呼び戻すのかもしれません。その感情が何であれ、それが提供しているのは、あなたが本当に気にかけていることについての情報です。

その感情をはぐらかしたり、飛び越したりするのではなく、時間を割いて、それが伝えようとしていることに耳を傾けようと、Wills氏はアドバイスしています。

4.「その情報に基づいて行動する」

第4ステージは、「その情報に基づいて行動する」です。

場合によっては、ひびが入った人間関係を終わらせるか、あるいは、修復する手順を踏むことになるでしょう。家族と過ごす時間を増やすと決心するかもしれませんし、すっかり忘れていた夢を追いかけるために時間を工面するかもしれません。

「心の知能指数をフル活用し、感情のデータを総動員すれば、意思決定に良い影響を与えることができます」と、Wills氏は言っています。

自分の感情に耳を傾けたあとには、自身の知的で論理的な一面へ立ち返ることができます。感情と論理を組み合わせることで、最良の決断を下せるようになるのです。

5.「感情に感謝する」

最後は、第5ステージ「感情に感謝する」です。

私たちの感情は、必ずしも心地いいものではありません。非合理的に思えるときもあります。

けれども感情は、私たちの願望をのぞき見ることができる窓なのです。感情に積極的に耳を傾ければ、その力を借りて、人生にとって最良の決断を下せるようになるでしょう。

Source: Amazon