自身のことを「保守的な人間」だと言い、自ら何かを変えることは得意ではなかったと、富士通Japanのスマートシティビジネス推進部門で活躍する片岡正彰さんは語ります。

しかし、コロナ禍に第2子が誕生したことをきっかけに、次々と行動を起こしていきます。その時、片岡さんは何を思いどんな行動を起こしたのでしょうか。

地域ビジネスに関わりたい。複数部門を経験した末に叶えた想い

これまでさまざまな部門や職種を経験してきた片岡さん
これまでさまざまな部門や職種を経験してきた片岡さん

2010年、地域活性化や地域医療に関わるビジネスに携わりたいと思い、富士通に入社した片岡さん

しかし、最初に配属されたのはアプリケーション領域におけるモダナイゼーション関連サービスを担当するSE部門でした。

主に、お客様のレガシーシステムを最新技術に適合したシステムに載せかえていくプロジェクトに携わっていました。

対象となるシステムの多くは、度重なる改修によりプログラムが複雑化していて、右から左に載せ換えれば済むという単純なものではありませんでした。

そのため、まずは現状を可視化し、お客様とともに新システムに引き継ぐプログラムを取捨選択していくところからはじめていました。

さまざまな大規模プロジェクトに従事してきた片岡さん

SEとしての経験を重ね、日々の仕事に充実感を得ていく一方で、「いまの業務とは違うこともやってみたい」という感情も芽生えていったと言います。

入社から7年ほど経ち、SEとしての基礎ができあがったということもあって、これからのキャリアをどうするかについてよく考えていました。

ちょうどそんな時、デジタルビジネスを専門に扱う部署が立ち上がることを知りました。

そこで募集されていたのは、デジタル技術を駆使しながらお客様との共創に取り組む「デジタルイノベーター」という新しい職種。

そこでなら今とは違うことができる、もしかしたら入社時の想いも叶えられるかもしれない。そんなことを当時は考えていた気がします。

もちろん不安はありましたが、それよりも「やってみたい」という気持ちのほうが強く、思い切って手を挙げることにしたんです。

新設部署では、担当するお客様のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を実現すべく、企画の上流工程に携わった片岡さん。

直接的に地域ビジネスに関わることはなかったものの、お客様とともに新しい企画を考える楽しさを味わったと言います。その後、複数の部署を経験した片岡さんは、ついに入社時の想いを叶えられる部署を見つけます。

2021年10月に、社内ポスティング制度を使って富士通Japanクロスインダストリービジネス本部に移りました。

今業務として取り組んでいるのは、スマートシティビジネスの推進。まさに地域ビジネスに関わりたいという想いを実現できています

たとえば、ICTを活用した新しい都市づくりや、住民への高付加価値サービスの提供を検討している自治体に対し、アプローチを行なっています。

この転籍の数カ月前、その後の片岡さんの働き方を大きく変える「ある出来事」があったと言います。

妻の里帰り出産を機に地元・愛媛へ。充実した時間の中で感じた想い

「防災」をテーマに行なったワーケーションでの一枚
「防災」をテーマに行なったワーケーションでの一枚

地元・愛媛に貢献するような仕事をしたい。将来的にはUターンを」と入社前から考えていた片岡さん。

入社からしばらく経ち、仕事においても生活においても基盤ができてきたなと実感していました。

妻も私と同じ愛媛出身というのもあって、地元への想いは強く持っていましたが、いきなりUターンするというのはなかなか度胸のいることで。

もう少し段階を経て、実際に拠点を移すのは、もっとずっと先のことだろうなと考えていました。

そんな片岡さんに転機が訪れます。

妻が里帰り出産することになりました

当時は、コロナが大流行しはじめていた時期。そんな時に、愛媛と東京の行き来もはばかられたのと、そもそも家族バラバラで過ごすのも嫌だなと思ったんです。

それならばと思い、当時の上司と人事部門に相談しました。第2子の誕生にあわせ私も一緒に愛媛へ移り、テレワーク勤務をしてもいいかと。

会社としてもテレワークを推奨していたこともあり、双方からOKがでました。子どもの誕生に立ち会えただけではなく、長男にも素朴で新鮮な体験をさせることができ、非常に充実した時間でした。

この体験をきっかけに、「地方で働くイメージを掴めた」と語る片岡さん。入社時から持っていた地域ビジネスへの想いが膨らみます。

愛媛から移って1カ月くらい経った頃、先ほどお話ししたポスティング募集を見つけました。募集要項を詳しく見ていくと、その部門ではスマートシティの推進を行なうとの情報が。これはいいタイミングだと思い、応募しました。

というのも、転籍前の部署でスマートシティの案件に少し関わる機会があって、興味を持っていたんです。それに、スマートシティと言えば、私がやりたかった地域ビジネスそのものだなと。

希望を胸に転籍した片岡さん。そこでは、転籍後すぐにワーケーションを体験することになったと言います。

観光庁が地域と企業をマッチングさせ、ワーケーションのモデル事業を創出するという取り組みがありました。

選定されたのは全国40地域と民間企業40社。富士通Japanもその中の一社として選ばれ、当社の相手方は新潟県糸魚川市様となりました。

参加者にとって学びがあるワーケーションプログラムをつくろう」という方向性に両者相違はありませんでした。では、具体的にどんなワーケーションプログラムをつくるか。

糸魚川市様とお打合せをしていくなかで、「まずは糸魚川市を体験しましょう」となりまして。3泊4日のプログラムに参加することになりました。

糸魚川市との事業企画で初体験。ワーケーションが教えてくれたこと

ワーケーションを通して「地域が抱える課題を肌で感じられた」と語る片岡さん
ワーケーションを通して「地域が抱える課題を肌で感じられた」と語る片岡さん

ワーケーションプログラムを通して、糸魚川市様をより深く理解し、後につながる深い関係性を築くことができたと片岡さんは語ります。

体験してよかったと感じたのは、お客様と一緒に食事をしたり、アクティビティに参加したりなど、同じ目線、同じ時間を共有できたことですね。

会議室でこちらから「この地域の課題は何ですか?」と聞いて答えてもらったものと、自分自身がその中に入り、耳にし、目にした課題とでは、やはり違うと思います。

ワーケーション中、ある地元の方と郷土料理である笹寿司を一緒につくる機会がありました。その方が、寂しそうに「最近は飲みに行けないよね、終バスが早くなっちゃって」とおっしゃられたんですね。

友達と飲むに出かけることが楽しみの1つなのに、それもなかなか難しくなってしまったと。

現地に行かなくても、地域課題のひとつに「交通」があるというのはわかるかもしれない。でも、実際にその場に行ってみないと、困っている人の顔や困っているシーンは具体的に浮かんでこないと思うんです。

その後、糸魚川市様とはワーケーションパートナーシップ協定を締結。また、ワーケーションに対する片岡さん自身の認識も変わったと言います。

ワーケーションと言えば、どこかリゾート地に出かけ、遊びの合間に仕事する。

そんなイメージばかり持っていました。でも今回体験してみて、ワーケーションにもさまざまな形があることを知りました。

ゆくゆくは地元に戻り、地元のために何かしたいと思っている方や、都市部から地方に移住してみたいと思っている方、地域ビジネスに興味がある方は、社内に結構いると思います。

でも、私が悩んだように「今すぐ生活基盤を変えるのは不安」という人は少なくないはず。

会社のワーケーション制度を使えば、今の生活を大きく変えず、地域とゆるやかにつながりながら、ありたいワークスタイルやライフスタイルを体験、実現できます

事務所に行かずとも仕事ができるようになった今。ワーケーションが「新しいワークスタイル」の1つとなっていくかもしれないですね。

まずは体験し、自分なりのワーケーションの使い方を見つけてほしい

「自分の思い込みを一度捨ててみると、案外なんてことなかったり、おもしろいことが起きたりするんです」と語る片岡さん
「自分の思い込みを一度捨ててみると、案外なんてことなかったり、おもしろいことが起きたりするんです」と語る片岡さん

2022年12月現在、業務の一環としてワーケーションの推進にも力を入れている片岡さん。

「ワーケーションは特別な人が使うもの」と思っている人にこそ、ぜひ体験してみてほしいと言います。

食わず嫌いをせずに、とりあえず食べてみる。一度ワーケーションしてみると自分なりの使い方が見つかるかもしれません。

先ほども言いましたが、ワーケーションの形は1つではないんです。

「興味はあるけど、育児や介護があるから難しい」という声をよく耳にします。私自身も子どもが2人いるため、ワーケーションに行く前は必ず家庭内での調整が必要となりますし、誰もが気軽に行けるものではないのは確かです。

ただ最近は、親子ワーケーションという形もできてきました。

地方で自然に触れ合うため、子どもを現地の学校に体験入学させ、親は現地で仕事をする。そんな使い方もあるので、興味がある方はぜひ一度体験してもらえるとうれしいですね。

ワーケーションには、まだまだ課題がいっぱいあるのだそう。担当するお客様とともにワーケーションを推進する立場になった今、片岡さんが考える今後の展望とは。

ただ「ワーケーションとは何か」を発信するのではなく、ワーケーション制度を活用した新しい働き方や地域とのつながり方を発信できるといいなと考えています。

ワーケーション制度がどんどん広がれば、都市部で働くか地方で働くかの二択ではなくなっていくと思うんです。

たとえば、都市部で働く人が気になる地域でまずはワーケーションをやってみる。

その地域が気に入った人は、継続して通うようになるでしょうし、最終的に定住することになるかもしれません。

仮にそうならなくても、生活基盤は今まで通りですから困ることはありません。

自然な形であらゆる人が地域と関わりを持てる社会、働き方へと、日本全体が変わっていけると良いですし、私自身もその実現に向けて取り組んでいきたいと思っています。

今経験していることのすべてが、地元・愛媛にUターンする時に活きてくるはず。そう、楽しそうに語る片岡さんの挑戦はまだまだ続きます。

Image: talentbook

Source: talentbook, FUJITSU, 国土交通省 観光庁