人が集まれない? コロナ時代のオフィスのありかたとは?

グッドカンパニー研究」当シリーズでは、多様な働き方を考えるカンファレンス 「Tokyo Work Design Week」 を主催し、現代における様々な「働き方」を探求、「ヒューマンファースト研究所(※)」の外部アドバイザーでもある横石崇さんが、時代をリードする企業のオフィスを訪問取材。

オフィスのありかたから垣間見える企業の理念やコミュニケーションに関する考え方、その企業らしい新しい働き方を探究し、「グッドカンパニーとは何か」を探ります。

いま世界中でオフィスのありかたが見直されています。次の一手のために必要なことは何なのか? 企業にとってのGOODを追求することでそのヒントが見えてきます。(横石 崇)

渋谷駅周辺エリアで一番高いビルに生まれた「街」のようなオフィス

第8回は、2020年に「渋谷スクランブルスクエア」へ移転したMIXIのオフィスへ。地上47階と、渋谷駅周辺エリアでもっとも高いビルの28~36階の9フロアを専有し、ビルの竣工前からオフィス設計を進めることで「各フロアを内階段でつなぐ」といった大胆なアイデアを実現しています。

オフィス全体のコンセプトは「街をつくる」。それぞれのフロアに「住宅」「商店街」「公園」など街になぞらえたテーマがあり、36階のエントランスのテーマは「ミュージアム」です。

巨大なLEDディスプレイが来訪者を迎える36階のエントランスフロア。この階には大小あわせて約50の会議室とセミナールームがある。コロナ禍を経て会議室の新たな使い方も模索中なんだとか。
巨大なLEDディスプレイが来訪者を迎える36階のエントランスフロア。この階には大小あわせて約50の会議室とセミナールームがある。コロナ禍を経て会議室の新たな使い方も模索中なんだとか。

圧倒的スケールのLEDスクリーンに映し出されるのは、渋谷の街や多様性を表現し、“MIXIの今”を発信するオリジナルの映像。

左:スクリーン側は「未来の渋谷」、右:窓側は「現在の渋谷」を表現している。
左:スクリーン側は「未来の渋谷」、右:窓側は「現在の渋谷」を表現している。
Image:MIXI

天然木が使われた中央のスペースに立つと、スクリーンと渋谷の街を見下ろす全面窓が、額縁に囲まれた絵のように見えてきます。真ん中にはコミュニケーションを生む仕掛けでもある、象徴的な階段が。

そんなオフィスから見えてきた新しい働き方とは?

移転プロジェクトを推進した「はたらく環境推進本部」の嵯峨 勇さんと、労務部の西 花菜さんに聞きました。

グッドカンパニー研究 Vol.8

【調査するオフィス】

株式会社MIXI(ミクシィ)/東京都渋谷区渋谷

【話を聞いた人】

嵯峨 勇さん/はたらく環境推進本部 せいかつ環境室 マネージャー

西 花菜さん/労務部

渋谷以外の街は、降り立った瞬間に「違う」と感じた

嵯峨 勇さん/はたらく環境推進本部 せいかつ環境室 マネージャー
嵯峨 勇さん/はたらく環境推進本部 せいかつ環境室 マネージャー

横石 崇(以下、横石):MIXIさんは1997年に創業し、現在はゲームやスポーツ事業など多彩な事業を展開されています。近年の人員拡大もあり、渋谷周辺に分散したオフィスを一か所に集めるために、こちらに移転されたそうですね。

嵯峨 勇さん(以下、嵯峨):はい。ゲームアプリ「モンスターストライク」がヒットしてから、ほぼ1年おきにサテライトオフィスの増築を繰り返してきましたが、採用ペースにまったく追いつかなくて。

そんなときに「渋谷スクランブルスクエア」の建設が決まり、入居したいと名乗りを上げて、2017年から約3年がかりの移転プロジェクトが始まりました。

部署ごとに固定席はあるが、業務や気分に合わせて働きたい場所で作業ができる。
部署ごとに固定席はあるが、業務や気分に合わせて働きたい場所で作業ができる。
Image:MIXI

新オフィスのテーマは「For Communication(全てはコミュニケーションのために)」。これは弊社の移転当時のミッションでもありました。これを実現するために3つの項目を立て、それぞれの役割が果たせる設備・環境にデザインしています。

“思い立ってすぐに会うため”の「Meet Up」

“オンオフの切り替えをするため”の「Switch Up」

“アイデアを生むため”の「Dream Up」

もともとMIXIは、コミュニケーションしやすい環境づくりにこだわりがあります。

SNSの「mixi」、協力プレイが特徴の「モンスターストライク」、子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」など、弊社のサービスにはどこかに必ず「コミュニケーション」というキーワードが入っています。それを実現するためにも「まずは自分たちから」という思いがありました。

横石:いま事業数は、グループ会社を含めるとどれくらいあるのでしょう?

西 花菜さん(以下、西):20を超えるサービスを運営しています。一昨年前からM&Aに注力し、Jリーグの「FC東京」やB.LEAGUEの「千葉ジェッツふなばし」をグループ会社化するなどスポーツ事業に参入したこともあって、私たちも把握しきれないくらい増えていますね。

「モンスターストライク」を立ち上げる前は、社員数が500人弱だったのに、今は1400人以上ですから、当時のオフィスでは到底まかないきれなかったと思います。

横石:とはいえ、会社や社員が増えてもオフィスはバラバラでもいい、という声はなかったのでしょうか。集約した狙いはどこにあったのですか?

嵯峨:MIXIではコロナ前から部署を横断した打ち合わせが多く、「顔を合わせて喋りたい」というニーズが強かったんです。以前も信号ひとつ渡れば行き来できる距離に拠点はあったのですが、経営層からは「その時間がもったいない」と。

また、創業以来「渋谷」に拠点を構える弊社としては、街への愛着もありました。近年の駅周辺の再開発により、渋谷には再びIT先進企業が多く集まるようになっています。優秀なエンジニアを採用する上では、この場所が非常に有利に働くと感じています。

他のIT企業との情報交換も活発にできるし、「渋谷をIT分野における世界的技術拠点にする」という共通の目標のもと、渋谷区との官民連携も取りやすい。そういったメリットも大きかったですね。

ただ、渋谷以外の選択肢もなかったわけではありません。役員と虎ノ門や東京駅周辺のオフィスも見学しましたが、街に降り立った瞬間にみんなが「違う」と感じたんです。

渋谷にはいろいろな文化が複雑に入り混じっていて、ここならではの刺激がある。カオスのようでいて、それぞれが独立してバラバラというのでもなく、奇妙に繋がり合って一つの世界観として成立しています。そういう街って、渋谷しかないんじゃないかなと。

エントランスのスクリーンの映像でダイバーシティを表現したように、いろいろなものを吸収して、かつ成長し続けていく、変化をし続けていく。そんな渋谷のありかたも、私たちと通ずるところがあるように感じています。

横石:そうして巡り合ったのが、スクランブル交差点を見下ろすこのビルだった──。まさに渋谷と縁が深い会社ならではの経緯と決断ですね。

見下ろすと、そこには渋谷の象徴であるスクランブル交差点が。成長していく街の様子を眺めながらの会議は、クリエイティビティが刺激されそう。
見下ろすと、そこには渋谷の象徴であるスクランブル交差点が。成長していく街の様子を眺めながらの会議は、クリエイティビティが刺激されそう。
会議室に向かう際、窓に目を向けると富士山がくっきり!渋谷からこんなに見えるのかと驚いた。写真でも美しいが、肉眼で見たときの迫力は圧巻。
会議室に向かう際、窓に目を向けると富士山がくっきり!渋谷からこんなに見えるのかと驚いた。写真でも美しいが、肉眼で見たときの迫力は圧巻。

コンセプトは「街をつくる」。驚きと居心地の良さを提供したい

横石崇さん/ヒューマンファースト研究所アドバイザー
横石崇さん/ヒューマンファースト研究所アドバイザー

横石:「街をつくる」というコンセプトに沿ったゾーニングや意匠、テクノロジーの随所にMIXIのこだわりを感じました。このコンセプトは、どのように決まったのでしょうか。

嵯峨:弊社は行動指針として「ユーザーサプライズファースト」を掲げ、「コミュニケーションサービス」を手がけています。そこで新オフィスにも、この2つを絡めたいという思いがまずありました。

それに加えて「どうして私たちは渋谷が好きなんだろう?」と考えたときに、やはり「驚き」があるからではないかと。ならば、社員はもちろんここに来るお客様やユーザーにも「驚き」を提供したいし、コミュニケーションしやすいような造りにもしたい。

それなら「街」をつくってみようかと。日々暮らす場所もあり、息抜きする場所も、遊ぶ場所もあって──といったイメージから、「街をつくる」というコンセプトが出てきました。

次のページ>>
重視したのは「居心地の良さ」、どんな工夫が?
12