よりよい人生、よりよいキャリアを望むなら、今避けて通れないのが「リスキリング」。ただ学び直すだけでなく、変化の激しいこの時代に必要とされ続けるために新しいスキルを身につける、いわば「自分自身をアップデートする」ことです。

そのためには、自身が現在持っているスキルや経験を見つめ直し、その価値を高める分野を見極めて学ぶこと、つまり「リスキリング戦略」も重要になってきます。

この特集では、「自身の価値を最大限に深化させる学び方」をご紹介します。


前編に続き、後編もリクルートでHR統括編集長と『リクナビNEXT』編集長を務める藤井薫さんに登場いただき、個人で取り組みたいリスキリングについて聞きました。

採用につながるスキルは、意外と身近なところにある」。藤井さんのそんなお話は、よりよいキャリアを望む人を勇気づけてくれます。

▼前編はこちら

企業の8割「人材採用に課題あり」。転職につながる個人のリスキリング戦略とは? | ライフハッカー・ジャパン

企業の8割「人材採用に課題あり」。転職につながる個人のリスキリング戦略とは? | ライフハッカー・ジャパン

求められる人材に共通する「2つのスキル」とは

前編では、これまでの常識を覆すような社会変化が次々と起こるなかで、企業は生き残りのためにビジネスモデルの転換や新規事業参入などの路線変更を余儀なくされていること。そして変化に対応できる人材を求めていることを紹介しました。

そのために企業は社員をリスキリングし、それでも人材が足りなければ社外から採用するなどして人員を獲得しています。

その新たな成長機会に転職し、活躍するためには「2つのスキルが必要になる」と藤井さんは解説します。

まず1つは、業界特化型のスキル。医師や弁護士といった国が認める業務特化資格とは言わないまでも、転職したい企業の事業にあわせた専門知識を身につけておくことは、採用には有利です。

山登りをするのか、高級ホテルで記念日を祝うのか、行く先に合わせて服装を決めるのと同じで、「とりあえず英語を」「何かに活かせそうだからプログラミングを」といきあたりばったりで何かを学ぶよりも、行き先(企業)にふさわしいスキルとは何かを考えることが非常に重要になります。

そしてもう1つは、どの業界にも必要になる汎用性の高いスキルです。変化の激しい時代、専門知識やスキルと同じぐらい、その後の働き方や生き方を豊かに変える手段となるのがポータブルスキルです。

ポータブルスキル」、聞いたことはあるでしょうか。

経験や培った力を振り返ることも「リスキリング」

ポータブルスキルとは、業種や職種が変わっても「持ち運ぶことができる能力」。つまり、自分がこれまでやってきたことや身につけた能力、仕事への向き合い方、得意分野や適性のことです。

ポータブルスキルを見極めるには、自分自身を内観し、振り返る作業、人から評価されるポイントもあらためて棚卸しして整理してみるのが役に立ちます。

ポータブルスキル1:仕事のやり方

まず振り返りたいのは「仕事のやり方」。課題を明らかにする、計画を立てる、実行するといった能力は、どんな職種にも必要となります。何が得意で、その能力がどう仕事に活かせるのか? 把握できるといいでしょう。

たとえば、営業職へ職種変更をしたい編集者がいるとします。営業は未経験であっても、クライアントの希望や課題を引き出し、ニーズや情報を分析してまとめ、必要なスタッフを集めたりスケジュールを管理したりするといった営業の仕事のやり方は、編集者の仕事の進め方と変わりません。

また、藤井さんが紹介してくれたのは旅行代理店からRPAエンジニアというまったくの異職種に転身したケース。エンジニアの経験や専門知識がなくても、その人の持つ成長思考や実行力、学習意欲が企業の採用要件と合致し、採用に至ったのだそうです。

ポータブルスキル2:人との関わり方

また「人との関わり方」も内観したいポイント。社内対応(上司・営業職)、社外対応(顧客、パートナー)、部下マネジメント(評価や指導)の観点で、自分を見つめてみましょう。

「社長に『もっとこの領域に投資すべきです』と提言できる人もいますし、『この人が出てきてくれると、いつもいい感じにまとまる』という人もいますよね。それはその人のポータブルスキルです。

自分にはそのスキルがないとがっかりする必要はありません。「自分は部下や後輩に慕われているな」という実感や「◯◯さんと一緒の現場は安心します」と言われた誰かのひと言までを、自分のなかで棚卸しするといいでしょう。

厚生労働省も「ポータブルスキルとは、職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキルのこと」と定義し、ポータブルスキル見える化できるツールも提供しています。ぜひチェックしてみてください。

ポータブルスキルには磨きをかけ、足りない部分はリスキリングで補っていきましょう。

企業が欲しいのは、変化をともにできる人材

自分自身を見つめてポータブルスキルを見つけたら、いよいよ転職活動に生かす番。行きたい企業の採用要件と自分という人材のギャップを埋め、いかに自分がふさわしい人材であるかをアピールしていきます。

しかし、アピールのしかたも、今の転職市場では少し変わってきているそうです。

その職種では経験がないのに「できる」と取り繕うよりも、「今の自分にはこれしかないけど、御社が加速させたいことに、私はこの部分で貢献したい」と正直に伝えてみることもいいでしょう。変化を続ける社会のなかで、企業が求めているのは変化に対応できる人材なのですから。

自分がどこへ行きたいか、そしてその場所に行くには何を身につけるべきか。クローゼットのワードローブを見返すように、自分自身を見つめてポータブルスキルを見つけることが、自分が自分のために行なうリスキリング

肩書きにはならないけれど、自分の経験に基づいた強みが誰しも必ずあるはず。その強みこそ、仕事、ひいては人生を味方してくれるスキルになってくれそうです。

「今、求められる人材と採用につながるスキル」まとめ

1. VUCA社会において変化を余儀なくされる企業が求める人材は、変化についていける人。

2. 企業の8割が採用計画を満たせていない。採用要件が変わる今は、異業種・異職種への転職がしやすいとき。

3. 行く場所にふさわしい服を身につけるように、希望の転職先にふさわしいスキルを身につける。

4. 自分を見つめ直し、業種や職種が変わっても持ち運ぶことができる能力「ポータブルスキル」を探す。

5. できないことをできると取り繕うのではなく、伸びしろをアピールできるような企業との対話を。

▼前編はこちら

企業の8割「人材採用に課題あり」。転職につながる個人のリスキリング戦略とは? | ライフハッカー・ジャパン

企業の8割「人材採用に課題あり」。転職につながる個人のリスキリング戦略とは? | ライフハッカー・ジャパン

藤井薫(ふじい・かおる)

藤井薫(ふじい・かおる)

HR統括編集長。『リクナビNEXT』編集長。1988年リクルート入社以来、人材事業のメディアプロデュースに従事。TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長、リクルートワークス研究所Works編集部を歴任。リクルート経営コンピタンス研究所兼務。デジタルハリウッド大学/明星大学非常勤講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、千葉大学客員教員。厚生労働省・採用関連調査研究会の委員歴任。著書に『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)。