仕事のうえでは、直属上司や取引先とは、敬語を使って話しているでしょう。

ですが、初対面ならいざしらず、最初から最後まで敬語のみでやりとりすることは少ないはず。敬語の中にややくだけた表現を交えて、会話を進めるのが普通でしょう。

たとえば、

「A社のアポイントが無事取れました。営業の同行をお願いしてよろしいでしょうか。向こうの窓口はコワモテで有名らしいんです。知ってましたか?」

というふうに。

こうしたほうが、自然でスムーズ。今後の人間関係も円滑になると感じられます。

筆者は、これがとても苦手。特にオンラインでの折衝・取材が主流になってから、敬語とくだけた表現の切り替えが難しいと感じています。みなさんも、同じような気持ちがあるのではないでしょうか?

そう思っていたときに出会ったのが、『いい人間関係は「敬語のくずし方」で決まる』(藤田尚弓著/青春出版社)という新書。コミュニケーションコンサルタントという、その道のプロの著作だけあり、腑に落ちるアドバイスが秀逸な1冊です。

今回は本書をベースに、敬語のくずし方のコツを紹介していきます。

雑談の盛り上がりがチャンス

著者の藤田尚弓さんはまず、「敬語をくずしていいタイミングを見極めるのが大事と説きます。

なかでも重要なのが、今話されている「話題」。会話の内容が以下のものであれば、敬語をくずす絶好のチャンス」なのだそうです。

  • 天気など、いわゆる挨拶のような話題
  • 打ち合わせの前後などに行なわれる雑談
  • 趣味の話などプライベートな話題
  • 武勇伝や自慢話など相手が話したい話題

話題がこういったもので、かつ「盛り上がっていれば」、安心して敬語をくずしていいサイン。

盛り上がりの判断のポイントとして、「特定の単語が何度も出てくる」「声が大きくなる」などいくつかあります。このタイミングを逃さないようにすればいいわけです。

ただし、頬杖をつくなど姿勢も崩してしまうのはリスキー。身体は左右対称を心がけ、顎を引き、相手の目をみながら相づちを打つことで、敬意を保ちます。

巧みに敬語をくずすテクニック

「敬語をくずす」というのは、いきなりタメ口全開にするという意味ではありません。それだと、相手に違和感を与えるだけで逆効果です。

敬語をくずす達人は、相手に「敬語をくずしたな」と気づかれないテクニックを使っているそうです。

テクニックと言ってもシンプルなもの。誰でもすぐにマスターできます。

その1つが、「漢字熟語を減らす」。例を挙げると「拝見します」「頂戴します」。これを「見ます」「いただきます」に言い換えるだけで、かしこまった印象はほぐれます。かつ、ぶしつけでなく、上司・取引先との会話でも不自然ではありません。

そういえば筆者の体験でも、オンラインの打ち合わせで、相手がスライド資料を表示したときに、いちいち「拝見させていただきます」を連発。ここは、「では、見ます。なるほど…」と、つなげればよかったのです。

また、「お話ししていいですか」→「話していいですか」、「ご立派ですね」→「立派ですねというふうに、「お」や「ご」を取るのも効果的

こうしたテクニックをさりげなく使えば、いつの間にか打ち解けた雰囲気をつくれます。

そこから一歩進んで、「リアクション部分を弱める」「相手に敬語を使わせない話し方」といったテクニックも活用。彼我の立場やどれだけ関係を深めたいかにもよりますが、最終的にはタメ口を混ぜたやりとりも目指せます。

相手のタイプに合わせたくずし方

本書には、相手を5タイプに分類し、タイプ別の敬語のくずし方も指南されています。

たとえば、主張が強めの「リーダー・バリキャリタイプ」。

こうした相手で敬語をくずすポイントは、「大義ある取り組み」の話。大義といっても大仰に考える必要はなく、「部下に仕事のコツを教えた」「コンビニでお釣りを募金箱に入れた」といったものも該当します。

こういった話が出たときに、「うわーっ、感動するなぁ! 非常に意義のある取り組みだと思います!」から、もっと簡潔な「俺も頑張らなくちゃ」まで、相手と場の雰囲気に合わせたリアクションを返すわけです。

このとき注意したいのは、自分の感情を直接あらわした際は「視線を合わせない」こと。手元を見てつぶやいたあと、視線を合わせて言葉を継ぐようにします。

別れ際の雑談では相手の名前を出す

さらに、より具体的なシチュエーション別の対策も。上司・取引先とのランチから合コンやPTAまで、実践的な解説があります。

その中の「取引先で雑談」を取り上げましょう。商談に入る前の雑談は、互いの緊張を和らげる大事な機会。初対面ではあれば、「相手の会社の立地などを褒める」、2度目以降であれば、「駅からの道のりについてポジティブな感想を言う」のが有効だそうです。

「このビルは本当に駅から近いですね。おかげさまで迷わずに来られました」

上の例では語尾の「ね」が、敬語をくずすポイントになっています。そして、「来られました」と言ったときに笑顔を見せることです。

ただ、別れ際の雑談となると、また別のコツがあります。藤田さんがすすめるのは「相手の名前を会話に入れる」。少し長くなりますが、例を引用します。

「今日は勉強になったなぁ。山田さんの『新しいものは慣れるまでの時間がかかるので抵抗がある』という感想でハッとさせられました。ついついメリットばかりに目が行ってしまうので、実際に使う人の声というのは貴重だなと……忌憚なく本音を言ってもらえる機会は、そう多くないんですよね。

担当してくださったのが山田さんでよかったです。また改善しましたら、ぜひ意見を聞かせてください。今日はお忙しい中、お時間を取っていただきありがとうございました」

あくまでも雑談なので、くずしすぎかなと思えるくらいにくずしてOK。相手の名前(例では山田さん)を口に出すことで、後まで印象に残ります。

最後は定型フレーズで締めれば、失礼と思われる万が一のリスクも減らせます。


本書を読み通して思ったのは、意外にも「オンラインでは、自分の雑談はほぼなかった」ことへの気づきでした。藤田さんも終わりのほうで指摘していますが、「『オンラインだと雑談が切り出しにくい』と感じる人も少なくない」のだそうです。

オンラインでも、敬語をくずすタイミングとコツは一緒。加えて「会話がかぶったとき」などもチャンスだそうです。

このように、本書は目から鱗の敬語のくずし方の秘訣がたくさんあります。特に仕事で人間関係がなかなか深まらないという方に、おすすめできます。

――2022年3月30日の記事を再編集のうえ、再掲しています。

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執筆: 鈴木拓也/Source: 青春出版社