敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。
今回お話を伺ったのは、在宅ワーク向けのD2C「WAAK°(ワアク)」を展開する酒見史裕さんです。
酒見 史裕
1978年、家具の町・福岡県大川市生まれ。高等卒業後、バンド活動、報道カメラマンアシスタントを経て、家業の有限会社丸惣に入社。家具の製造や開発、営業を経験する中で、中小企業にもブランディングの必要性を感じ独立、デザイン事務所STRINGSを立ち上げる。同業他社のブランディングの他、「機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ」「ガンダムビルドシリーズ」などのロゴ、グラフィックを手掛ける。2016年、先代の逝去に伴い有限会社丸惣代表取締役に就任。第二創業としてオフィスデスク専門ブランドFIEL(フィール)を立ち上げる。2019年にはオフィス家具のD2CブランドWAAK°(ワアク)を立ち上げ、ベンチャーキャピタルから資金調達を実施。
酒見さんは、家具の全国的産地「大川市」で家業の家具メーカーを継いだあと、在宅ワーク向けのデスクブランドを立ち上げています。あるようでなかった在宅ワーカーが求めるデスクは、新商品が出るたびにTwitterで話題に。なぜ、「WAAK°」はビジネスパーソンの心を惹きつけるのか。
従来の家具業界のあり方に縛られず「家具業界のAppleになる」という酒見さんの仕事術について伺いました。
ブランドを立ち上げ後、即コロナ禍で事業転換を迫られる
――現在のお仕事内容を教えてください。
WAAK°という在宅ワーク用のデスクを企画製造販売する会社の代表をしています。福岡県大川市という家具産地あるんですけれども、そこで4代続いている家具メーカーからスピンアウトした事業で、家業の工場や産地の生産背景を活かしたいわゆるD2Cブランドとして展開しています。
具体的な仕事は、ほぼすべてのことに携わっています。商品開発も中心的に入っていますし、CSのお客様対応も、元々デザインをやっていたので、UIやWebデザインも、ピクセル単位で指示するくらい細かく入り込んでいます。家具を作ること、納品すること以外は全部やっていると思います。
――在宅ワークに目をつけた理由は?
じつは当初は、スモールオフィス向けブランドとしてスタートしました。僕たちの拠点である福岡県大川市は、業界内で箱物家具と呼ばれるものを作るのが得意な地域で、その技術を活かして、作れるものって何だろうと考えました。そこでマーケットにまだ足りてないなと考えたのが、木製でデザイン性の高いデスクでした。
ただ立ち上げたのが2019年年末。新型コロナの緊急事態宣言で皆さんオフィス投資をストップしてしまいました。とはいえ、働かなくなるわけではなく、働く場所が変わるだけ。ならば在宅ワークのデスクに特化してみようと。
そこからはわりとうまく市場にフィットして、お客様から使いたいといったお話とかもたくさんいただいて、働く場所が変わるその転換期にビジネス立ち上げられたのは、結果的に良かったんじゃないかなと思います。
――代表的な製品を教えていただけますか?
たとえば、「WAAKtable」は、どうしても机を置く場所がないという方のために、ダイニングテーブルで働きやすくするために機能性をプラス。コンセントをつけたり、パソコンを入れられるようにしたテーブルです。
また、外部モニターを使いたくても片付けが必要になるという課題に対しては、モニターを取り付けられるワゴンを今作っています。
そこにモニターも取り付けられて配線も全部この中でできて、本や溜まった郵便物を入れられたり、下にキャスターが付いてるので使わないときは部屋の隅の方にガラガラと持っていってもらうと。
世の中には機能性やデザインや質感をバランスよく重視したものがなかなか存在しないので、それを作りたい思いがあります。こうしたデスクが毎回小バズりしています。
Gmailの下書きをメモ帳代わりにする
――仕事をする上で、欠かせないアプリは?
Twitter、Slack、Dropbox、Messengerです。
――そのアプリで何をしますか?
Twitterは、一番使用頻度が高いかな。よくリサーチするときに使っています。
在宅ワークをしている人のリアルな声を聞きたいとき、質問をするとリプライや引用RTで飛んでくるんですよね。こうした使い方や、WAAK°のユーザーさんとの交流に使っていることが多くて、これをやらないと仮説検証が自分の中で妄想から先に進まないですね。
あとはつねに情報収集をしているので、デスクとかデスクツアーというデスク周りを紹介する動画を、キーワードで検索して、Twitter上でリサーチすることもあります。
弊社の属性的に、InstagramよりもTwitterのほうがユーザーさんの属性が近いかなと思っていて、経営的な情報収集などの時間も含めると、1日1〜2時間ほどは見ている気がします。
――Dropboxは?
社内のデータはすべてDropboxに入れて管理をしています。仕事柄、外出していることが多く、出先で会議をしていても、データが必要になったときにサクッとデータを取れるので便利です。スマホでデータを開いて、SlackにDropboxのリンクを貼れば一瞬で共有できます。
――そのほかに欠かせないツールはありますか?
Gmailも一般的な使い方とは少し違っていて、メモ帳を持ち歩かずに、Gmailをメモ帳代わりにしています。
Gmailの下書きに書いておけば検索性も高いし、MacでもWindowsでもiPhoneでもどのデバイスからでもさっとアクセスできる。Evernoteやアナログのメモ帳なども含めて、いろいろと使ってみましたが、Gmailが一番いいなって気づきました。
たとえば、株主ミーティングを月1でやっているのですが、そこで話したことを下書きにばーっと書いて、あとで必要なタイミングで検索して。だいたいキーワードは覚えているので、Gmail検索だと探したいテキストにすぐアクセスできます。
読み直したり、資料に落とし込んだりするときにテキストデータで残しておくことが重要ですごく役立っていますね。
移動時間は良質なインプットと思考の時間
――仕事のなかで編み出したライフハックは?
大川市は、福岡市との距離が高速で1時間半、下道だと2時間ちょっとかかるような結構離れた場所になります。車で移動することが多く、この時間はインプットと思考の時間として有効に使っています。
福岡市内のショールームに週1〜2日は行っていて、その間は完全に一人になれるので、ユーザーインタビューの音声を繰り返し聞いたり、逆に音を止めて静かな車内でアイデアを考えたりしています。
電車で移動したほうが単純な移動コストは安くなると思いますが、満員電車の時間になると心理的余裕を持って考えたり、インプットするのが難しい。
知り合いに会ったら電車に乗っている間1時間話していないといけない、などもあるのでひとりの時間をここで作ったほうが多少コストは上がっても結果的にコスパはいいのかなと。これも、どちらも試した結果、今は車移動に落ち着いています。
ドイツ製品を使う理由
――お気に入りツール(またはアプリ)を3つ教えて。
車とメガネと、キッチンです。
車は、中古車ですがBMWの420iというスポーツクーペに乗っています。メガネはMYKITAというドイツブランドのものを使っています。ビスがなくてスチールの噛み合わせだけで閉じたり、開いたりできるもので、華奢なフレームも特徴的なメガネです。
キッチンはサンワカンパニーという日本のメーカーのものですが、食洗機やIHヒーターなどはドイツ製のものを取り付けています。
ドイツって、やっぱり工業デザインがすごく優れているんですよ。大量生産だけど、美しいものがすごく優れている。
車でいえば、BMWやAudi。メガネもそうですし、インテリアまわりはドイツブランドが結構多いんですよね。
僕たちのような家具って、つまるところ「この家具の良さってなんだっけ」みたいな問いを言語化するのが難しい。触り心地がいいって、それは本人の感覚なので。
触り心地がなぜいいのか。言語化できないものを言語化するためには、自分自身が生活の中で毎日触れて、なぜこれがいいのかを完全に理解する必要がある。自分自身が体感者でないと、それを人に伝えることができないなと思っています。
これが、地方だと土地が安く生活コストが安いので、広い家に安く住めたり、ちょっと中古車でいい車に乗ったりしていても、賢くやりくりしてやっていけます。だから、ドイツブランドを使って、「なぜいいのかの言語化」を毎日の癖のように実践しています。
創造的破壊。家具のサプライチェーンを再構築する
――これまでもらったアドバイスで印象的なものは?
だいぶ昔なのですが、僕がまだ20代のころ、家業に戻る前にフラフラしながらフリーターをしながら音楽をやっていまして…。
それは一応大目に見てくれていたというとか、私立中高行ってドロップアウトしているので親としてはいろいろ思うところはあったと思いますが。先代の職人をしていた父が、誰がどうやってどんなお金儲けをしているか世間を見て来いとずっと言っていて。
それは当時はピンときていなかったのですが、起業家をやるってなったときに、確かにビジネスはたくさんあるし、いろんなやり方があることを感じる中で、あのとき父親が言っていたことは結構、今になって思い出しますね。もしかしたらいいアドバイスだったのかもと(笑)
――自分の仕事哲学について一言
創造的破壊が僕の座右の銘なのですが、昔、グロービスの動画でGMOの熊谷さんが「イノベーションってなんですか?」と小泉進次郎さんに聞かれて答えた言葉です。創造的破壊。
実際、僕たちの事業は、傍目からはデスク屋や家具屋に見えているのですが、本質は家具のサプライチェーンの破壊と再構築なんですよね。R&D、接客をDXしてデジタル化したり、JACCSカードと提携して20回無金利というサービスを提供したり、protegerと延長保証のサービスを提携したり。
普通の家具屋さんだと、Twitterを使ったR&Dやオンライン接客などは当然やりません。
部分的に業界を変えてもダメで。サプライチェーン全部を変えないと。そういった意味で、創造的破壊がとても重要です。
あとは、ウォールナットっていう北米の木があるのですが、苗木から成木になるまで80年かかるのですよ。そのような木を僕らがいい加減に使って20年で捨ててしまってはいけないと思います。
ただ、一人が80年使ってしまうと、家具業界として市場規模が広がらない。だから引き取って、整備してまた売るというような新しいビジネスモデルをこの業界に持ってくる必要があると思っています。
いいものを長く。新しい家具の選択肢に
――最後に一言お願いします
そうですね。在宅ワークに向けているこだわりみたいなところですかね。僕は「ユーザーペインドリブン」と言っているのですが、ユーザーが言葉にする「顕在的ニーズ」だけを解決するのは足りなくて、「この人もあの人も言ってる」みたいな共通性、つまり潜在的なニーズや課題を見つけて、美しく解決する家具に僕らとしてはすごくこだわっています。
課題を解決するだけするだけだったら別にロープライスで家具を販売する大手の家具メーカーでも全然いいと思うんですよ。優秀な人がいて、コストもぐっと抑えて作っているので、それはそれでいいかなと思うのですけども。
デザインの良さも実用性も兼ね備えていて、大人も使える良い家具に選択肢が少ないので、そこは日本発のブランドとして、これからも世界に向けてやっていきたい。いいものを長く使いたい方には、ぜひ一度WAAK°を見ていただきたいなと思いますね。
Source: WAAK°/Photo: 本人提供