こころの天気図[新装版] 「自分」を知る146のヒント』(河合隼雄 著、PHP文庫)は、心理学者の河合隼雄さんが毎日新聞に連載されていた「はないちもんめ」の内容をまとめたもの。

「はないちもんめ」に関して興味深いのは、読者からの関心がもっとも高かったテーマが「心の問題」だったということ。連載中は多大な反響があったそうで、ここにはそんな読者の声や質問をもとに伺った話が集約されているわけです。

「筋道の立った人生はない」と本文にありますが、心の動きも同様だと思います。そこで、この本も、冒頭から筋道を立てて読むよりも、どこからでも読み始められるようにと、短文で構成しました。河合さんの話を、そばで聞いているような雰囲気で読んでいただければと願っています。(「まえがき」より)

聞き手の工藤直子さんはこう記していますが、事実、河合さんの話はユーモラスでくつろいだものだったそう。とはいえ、単に楽しいだけではなかったのも事実であるようです。いい気分で笑っていると、笑いの向こうから、思い当たるものが鋭く射込まれ、ハッと座りなおすことがたびたびあったというのです。

「語り」の伝えるものは、聞き手の器に関係してきます。器が粗くてこぼしたり、小さくて汲み上げられなかったものの多さを思うと残念ですが、改めて読者の方々の、器の大きさに期待する次第です。(「まえがき」より)

つまり読者にとっては、本書からいかに多くのものを汲み上げられるかが重要なポイントとなるのかもしれません。

きょうはそんな本書の第4章「こころ 晴れたり曇ったり」のなかから、いくつかのトピックスを抜き出してみたいと思います。

つまずきイコール発展

生きているからには、悩んだりつまずいたりすることもあって当然。いいことずくめだったとしたら、そのほうがよっぽど不自然だったりするわけです。

もちろん仕事上でのつまずきや、環境の変化がもたらす悩みなどにも同じことがいえるでしょうが、著者もあるときから「もめごとなしに物事が運ぶことはない」と思うようになったといいます。そしてそれが、つまずきつつ発展していくのだという考え方につながっていったそう。

ある人が、仕事のつまずきに直面した。そのつまずきの中にこそ新たな発展があるのではないかと思い、せっかくつまずいたんだから早く発展したいと思うが(笑)、ままにならないと言われました。

しかし、より正確に言いますと、つまずきイコール発展、なんですね。で、発展イコールつまずき、と言ってもいいほどです。(139ページより)

つまり、発展とつまずきは重なっているということなのでしょう。(139ページより)

筋道の立った人生はない

どうも「話」にしようとすると筋道を立ててしまうんですね。で、筋を追ってきれいにまとまると(なるほど!)ともっともなことに感じるのですが、人生というのは、あんまりそういうことはありません。

そんなに筋を追って、うまくまとめられるような、きわだったことは、むしろ起こらないと思っていいんじゃないでしょうか。

つまずきイコール発展。つまずきが大きいほど発展の可能性も大きい。その希望を持ち続けることです。(140〜141ページより)

そういう意味で、すばらしい発展とは大きな苦しみを伴うものでもあるということ。

したがって大切なのは、その苦しみをちゃんと引き受けること。そんなことを続けていくなかで人は、心を使って「生きる」という大事業を果たしていくわけです。(140ページより)

にもかかわらず「やる」と決意する

他人との間の越えがたい線というのは、この世に生きている限り、だれもが感じているんじゃないでしょうか。それを乗りこえて関係を持つのは、もしかしたら、ほとんど不可能に近いのかも知れない。

にもかかわらず「やろう」と決意することが、愛するということではないかと思うのです。(155ページより)

それが難しいとはっきり認識したうえで、あきらめず、関係を切らずに「やろう」としていくと、不思議なことにいつの間にか相手との関係が変わっていたりするもの。

急激な変化というよりも、夜が白々と明けるように、いつの間にか朝になっているような感じだと著者は表現しています。

「ハッ! わかった!」という劇的な変わり方をしても、すぐにまたわけがわからなくなり、ごちゃごちゃ混乱して、また少しわかって……。そんなサイクルを繰り返していくと、うるしを塗るように、だんだん光ってくるものだということです。(155ページより)

自分を信じて「よさ」を開発する

自分の持っている器量とか決断力とかを、もっと信じなきゃ。信じて開発しなきゃ。みんな、あっちこっちからの情報で、人とくらべて自分は駄目なのだと、悪いところばかり目につき、悪いところを直そうとしすぎるのと違いますか。

悪いところなんて直るはずがないんだから(笑)。そりゃ直るかも知れませんよ、でも、悪いところを直すのに十五年もかかるんだったら、良いところを一カ月で開発したほうがトクでしょう。悪いところを直すのに、えらい苦労していやな思いしてーー結局そんなに変わらないのだから。(159ページより)

たとえば英語と話すとき、「これだけしか話せない」とマイナス思考でいると、話せない方向にどんどん進んでしまうもの。しかし、「でも、これだけ話せる」というプラス思考に転換することができれば、意外と話せたりします。

そんなところからもわかるように、「これだけできる」という考え方をすると力が出てくるものだということです。(158ページより)


河合さんのことばのみならず、話題に関連のある本の紹介、引用なども収録。もちろん河合さんの著作に関しても、書名と出版社名が記載されています。そのため、心の問題を解決するために活用できるだけではなく、心理学についての関心を深める際にも大きく役立ってくれそうです。

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Source: PHP文庫