突然ですが、会議でブレスト(ブレインストーミング)をする時、ゴールにうまく辿り着けたことはあるでしょうか。
意見がたくさん出せたこともあれば、うまく発言できなかったこともあるかもしれません。
実は、ブレストには陥りやすい罠があるのです。今回は、その罠を明らかにし、より深く考えてアイデアを出せる「ブレインライティング」を紹介します。
ブレインストーミングのありがちな失敗
発言者・進行役による過剰な影響
これまでのブレストで、こんなことはありませんでしたか?
- 声が大きい人や、弁が立つ人の意見が中心に話が進んでいく
- チームのリーダーや上司、ベテラン社員など、立場のある人が会議を進めていく
- 上記の人が肯定してくれた内容が最適なアイデアだと思ってしまう
消極的な参加者の見落とし
また、参加者の中にはこんな人もいるかもしれません。
- 新入社員や転職してきたばかりで、組織の雰囲気をつかめていない人
- 会議中にあまり発言しないけど、実は自分の考えを構築している人
- 会議のあとの雑談で、こそっと自分の意見を話す人
自分は違う意見を持っていたり、付け足したりしたいと思っても、会議が白熱していくと言い出せない時もありますよね。その意見でもっと良い答えに近づくかもしれないのに。
ブレインストーミングの目的は集合知を高めること。特定の人だけがたくさん発言していたり、会議の方向性が上司の機嫌に左右されたりするようでは、本来の目的を達成できたとは言えないのではないでしょうか。
そこで、今注目されているブレストの方法が「ブレインライティング」です。
特定の誰かの意見に偏らない「ブレインライティング」
実は、ブレインライティング自体は新しいアプローチではありません。1968年に、ドイツのマーケティング専門家であるBernd Rohrbach氏によって考案されました。
彼の手法は、6人の参加者で構成され、5分以内に特定のワークシートに3つのアイデアを書き留めることを繰り返すため、「6-3-5 Brainwriting」とも呼ばれています。
なぜ再び注目されたのかというと、2023年10月の「TIME」誌において、心理学者でペンシルバニア大学ウォートンスクールの教授であるAdam Grant氏が、ブレインライティングがブレインストーミングよりも効果的であると述べたからです。
ちなみにGrant氏は作家でもあり、日本でも『GIVE&TAKE「与える人」こそ成功する時代』や 『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』(共に三笠書房)などの著作が出版されています。
すべての意見を引き出し、会議をよりスマートにできる
記事の中で同氏は、通常のブレインストーミングにおいて、参加者がいとも簡単に自身のエゴや発言力のある人、上司やリーダーなどの役職のある人の意見に偏ってしまうことを指摘しました。
さらに、ブレインストーミングの目的は、参加者の中で一番賢い人物になることではなく、会議そのものをスマートにすることだと警鐘を鳴らしています。
ブレインライティングのプロセスでは、すべててのアイデアがテーブルの上に出され、すべての声が会話に含まれることを確かなものにするとも述べています。
また、The University of Iowa Tippie College of Businessの准教授であるEean Crawford氏は次のように説いています。
アイデアを生み出し、他人のアイデアを聴き、評価することを一度に行なうより、それぞれの活動を分けて、焦点を絞って取り組んだ方が、私たちの脳はより良い働きをする。
また、1991年のシラキュース大学と海軍訓練システムセンターとの共同研究では、ブレインストーミングとブレインライティングのセッションの成果を比較したところ、ブレインライティングのグループの方が、20%も良いアイデアを生み出せたと報告されています。
実践編:「ブレインライティング」をやってみよう
では、実際にブレインライティングをやってみましょう。
「6」人で「3」つのアイデアを「5」分で考えるのが基本の形ですが、人数が少なくなったり、1回あたりの時間を調節したりしてもOK。ただし、人数が多すぎるとファシリテーションが難しくなるかもしれません。
リーダーや責任者がファシリテーターとなり、ブレストには参加せず、タイムキーパーや円滑な進行に専念しても良いでしょう。全員がルールを理解したうえではじめましょう。
- 各参加者は、5分間でワークシートに3つのアイデアを書き出す。文章だけでなく、イラストや図を描き込んでもOK。
- 5分が経過したら、ワークシートを隣の人に渡す。この時、全員が同じ方向の人に渡すようにする(右隣の人に渡す、時計回りで渡す、など)。
- 受け取ったワークシートには、前の人が書いたアイデアが3つ記載されている。これらに対して、新たなアイデアを加えるか、改善案を書き加える。必ずしも、前の人が書いたアイデアに関連づける必要はない。
- 1〜3のプロセスを6回繰り返す。参加者が全てのシートに記入できれば、30分間で108個のアイデアが生成されるはず。
上の画像は、筆者がChatGPTで作成した簡易的なテンプレートですが、参加者の名前は必ずしも記入する必要はありません。
紙ベースでの実施のほか、Googleドキュメントやスプレッドシートなどのオンラインツールを活用すれば、リモートでも問題なく対応できるでしょう。
試して実感したメリット
筆者は2人で試してみましたが、もし実際の会議や初対面の人とのワークショップであれば、話すことに対するストレスがかなり緩和されそうだと感じました。
また、通常のブレストだと、次から次へとアイデアや付随する情報が流れていきますが、アイデアが紙に書かれて残っているので、何度も見返すことができます。
1回あたり5分間という限られた時間でも、自分のペースで考えアウトプットすることで、より深く課題やテーマに向き合えるような気がしました。
会議がマンネリ化してきた時や、新しい風を吹き込みたい時に、ぜひブレインライティングを取り入れてみてはいかがでしょうか