成長を求めて「すぐ辞める若手社員」と、現状に甘んじるベテラン社員との間には齟齬が生まれているーー。『ネガティブフィードバック 「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術』(難波 猛 著、アスコム)の著者はそう指摘しています。

だとすれば、上司は部下にやさしく接するだけで、厳しいアドバイスができなくなったとしても無理はありません。その結果、部下が「やさしすぎる企業」に見切りをつけるのもまた当然で、結果的に悪循環になっているわけです。とりわけ上司やリーダーにとっては非常に悩ましい問題であるといえるでしょう。

そんな上司やリーダーのみなさんのために、この本でお伝えしたいのが「ネガティブフィードバック」です。「耳が痛い」情報を、正しく部下に伝え、部下の行動を変えパフォーマンスを上げるためのメソッドです。(「はじめに」より)

人事コンサルタントとして2000人以上の管理職研修や3000人以上のキャリア支援を行ってきた著者のノウハウを軸として、心理学やキャリア論のロジックも活用しながら構築したものだそう。

本書に書かれていることを正しく実践していけば、誰にでもネガティブフィードバックは可能なのだとか。具体的には、「いいにくいことを落ち着いて伝えられる」「部下との関係性が最終的には良好になる」「部下が自律的に成長する」といった結果につながるというのです。

重要なポイントは、「問題がある相手を変える」のではなく、「問題を一緒に解決する」姿勢で臨むこと。こうした考え方に基づく本書のなかから、第5章「ネガティブフィードバックを成功させる心の整え方(5つのマインドセット)に注目してみたいと思います。

1:嫌われることを覚悟する

いうまでもなく、「耳が痛い話」をされて喜ぶ人はいません。たとえば面談で厳しいことを伝えたなら、部下から大なり小なり反発されるのは当然だということ。

ネガティブフィードバックはそういった現実を踏まえたうえで、「いかに嫌われないか」ではなく、「嫌われる可能性(少なくとも短期的には)を織り込み済み」で行うコミュニケーションなのだそうです。

ネガティブフィードバックで、組織の中に不協和音や摩擦が生じるのを避けたくなる気持ちはわかります。しかし、発生しているギャップや問題を放置や先送りすることで、解決はより困難になっていきます。

部下自身が気づいていないことがあれば、真剣に向き合って伝える。それが部下の成長に最も効果的ですし、一時的に反発されても部下との間に信頼関係を構築する最短ルートです。(152ページより)

上司の役割は「部下に好かれること」ではなく、部下を成長させることによって「組織の成果を最大化する」こと。そこで、その役割に正面から向き合い、ときには部下に厳しいフィードバックを実践することも必要となるのです。(150ページより)

2:期待するが期待しない

ネガティブフィードバックの主役は、伝える上司ではなく、伝えられる部下。

部下が自発的に変わろうとしなければ、意識や行動は改善されないわけです。つまりネガティブフィードバックは、あくまでも「相手の変化に期待する」もの

「この部下は変化できる」「もっと成長できるはず」「改善して、よりよい人生やキャリアを実現してほしい」という期待をもって臨む必要があるわけです。

基本的に、ネガティブフィードバックは「お前はダメだ」「ここが足りない」と決めつけたいわけではなく、「ギャップや問題は存在するが、あなただったら改善できるはずだ」「あなたは必ず成長できる」「あなたは気づけるはずだ」という性善説に立っています。

これは「人は変わらない」「成長しない」と考える「固定型マインドセット」ではなく、「人は変われる」「成長できる」と考える「成長型マインドセット」を上司自身が持つことを意味します。対象が中堅・ベテラン社員であっても、何歳からでも変わっていけるというのがネガティブフィードバックの考え方であるといえます。(156〜157ページより)

上司がネガティブフィードバックを行う際のポイントは、「問題点やギャップを伝えたら、解決策や行動計画は部下自身に考えさせる」こと。たとえ回り道になるとしても、部下が納得して、自発的に行動計画をつくるまで待つことも大切なのです。(155ページより)

3:感情をこめるが感情的にならない

部下に思いを伝えるために重要なのは、部下のことを考えている、期待している、信頼しているなど、「部下がどうなるのがベストか」という「相手軸の感情」をこめて話すこと。しかし、その反面で避けるべきは「自分軸の感情」「感情的な対応」「無感情な対応」。「その感情のベクトルはどこに向いているのか?」について、冷静に確認する必要があるのです。

ネガティブフィードバックの基本は、前述のとおり性善説に立つこと。厳しいことを伝えられた部下が感情的に反応したとしても、上司側は過剰に感情的に反応しないように心がけるべきだということです。(160ページより)

4:真剣に業務に取り組む

ネガティブフィードバックでは、普段の業務姿勢を通じて「この人にいわれたら仕方がない」と相手に思わせることも重要。部下の問題点を指摘したときに、「お前はどうなんだ?」と思われないことが必須であるわけです。

常に成長を心がけて業務にベストを尽くす、そうした姿をふだんから部下に見せることで、自分が言うことの重みが増していきます。(165ページより)

部下にフィードバックする内容は、自身がそれをできていない限り説得力に欠けてしまいます。そういう意味でも、仕事に対する姿勢を改めることも上司には求められるのです。(164ページより)

5:自分で決める

ネガティブフィードバックが必要になる際には、会社の事情が影響することも少なくありません。そのため上司としては、「自分はいいたくないけど」と口にしたくもなるもの。しかし、それは部下からの信頼感を失うことにもなりかねません。

ネガティブフィードバックは、「言えば嫌われるのはわかっているけれど、本人のために言っておいてあげたい」「本人のキャリアを考えると、この行動はどうしても変えてほしい」「組織全体のマネジメント上、この状態は黙認できない」など、誰かから言われたわけでもなく、上司自身のしっかりとした意思と覚悟で伝えると決めたときに行うようにしましょう。(176ページより)

言い訳を考えてしまうような優柔不断さで臨むのは厳禁だということ。(167ページより)


これら「5つのマインドセット」と、以後に紹介されている「5つのスキルセット」を実践していけば、部下が見違えるように成長し、強固な信頼関係が築けるはずだと著者は記しています。部下との関係に悩む上司やリーダーにとって、そんな本書は大きな力になってくれそうです。

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Source: アスコム