著者のことばを借りるなら、『コンセプト・センス 正解のない時代の答えのつくりかた』(吉田将英 著、WAVE出版)は「企画の本」。

「斬新なアイデアを生み出したい」「チームでの共創をスムーズに進めたい」「上司や取引先の承認をとりたい」「世の中をよくしたい」などの目的を持った、“企画に携わる人”に向けて書かれているということです。

ただしプランナーやクリエイターなど企画職の方だけをターゲットにしているわけではなく、根底にあるのは、広く「企て」をするすべての人に届けたいという思い。

人は「現状を変えたくて、企てる」ものなので、そうしたニーズに応えようとしているというのです。

とはいえ厄介なのは、「どうなったとき、その企てが成功といえるのか?」は曖昧であることが多いという事実。

「なにかもっと新しく」「ここままではなく、どうにかしたい」など漠然とした思いはあるものの、「とりあえず現状の延長線上は嫌だ」というように、その先が見えにくいことが少なくないわけです。

そこで、コンセプトです。

コンセプトとは、社会の既存の「当たり前」が見落としてきた、人々がまだ自覚できていない満たされていない欲求を満たし、理想の社会に今より近づくための「提案の方向性」のことであり、同時にアイデア創造の源泉であり、企画の骨子でもあります。

(「その違和感が、コンセプトの入り口になる 〜まえがきにかえて〜」より)

コンセプトを起点にすることができれば、「ここではないどこか」とはどこなのかを、自分の内部で、あるいは他者とともにつかむことが可能。また、企ての中身の質や実行する際の推進力など、すべてによい影響を与えることができるといいます。

この本では、コンセプトを基点に世の中を見聞きし、企てを考え、他者と関係性を築いていく感情を「コンセプト・センス」と名づけ、いかにしてそれを体得するかを考えていきます。

(「その違和感が、コンセプトの入り口になる 〜まえがきにかえて〜」より)

そんな本書のなかから、きょうは第2章「コンセプトは私たちに何をもたらすのか」内の「コンセプトとはどんなものか?」に焦点を当ててみたいと思います。

コンセプトを構成する「3要素」

コンセプトは、シンプルにまとめると次の3つで構成されていると著者は述べています。

① 誰による?(by)

② 誰に向けた?(for)

③ 何についての?(what)

(47ページより)

1つ目の「誰による」が意味するのは、【定義されたコンセプトを実際に使うのは誰か】ということ。なお、ここでいう“使う”とは、「コンセプトに基づいて企てを考える」ということのようです。

たとえばスターバックスであれば「スターバックス社およびスタッフ」、パーソナルコンピュータであれば「当時のコンピュータ産業に関わる多くの人々」というように。また、そのサイズ感も、最小単位であれば「あるひとりの人」、最大なら「国家」レベルとさまざま。

2つ目の「誰に向けた」が指すのは、【このコンセプトに基づいて想像される企てを受け取るのは誰か】。スターバックスであれば「スターバックスのお客さま」、パーソナルコンピュータであれば「地球上のほぼすべての人々」を当初から射程に入れて考えられていたということです。

ちなみに必ずしも1種類になるとは限らず、「直接、お金を払ってくれる人」だけを指すとも限らないようです。そこが難しいところではありますが、まずは「価値を受け取ってもらいたい相手は誰なのか?」くらいで理解してもらえればいいだろうと著者。

3つ目の「なにについての」は、【コンセプトの対象の事物】のこと。つまりはスターバックスなど、「企ての対象そのものがなんなのか」を指すわけです。

3つのなかでいちばんわかりやすい要素ではあるものの、なんのコンセプトを考えているのかがわからなくなることも少なくないとか。

考えているうちに、「コンセプトを定めることで、なにを得たいのか?」についての考えが混乱してしまうということで、その点については注意が必要でもあるようです。(47ページより)

コンセプトの性質は「3種類」

そしてコンセプトを3つ目の「なんの」で大まかに分類すると、世の中には大きく3種類のコンセプトが存在するのだそうです。

A. 「人の企て」のコンセプト

主な例:企業、団体、チームやグループ、ユニットやコンビ、部署や部門、学校、家族や一族、コミュニティ、地域

B. 「モノゴトの企て」のコンセプト

主な例:商品、サービス、施設、イベント、キャラクター

C. 「思想の企て」のコンセプト

主な例:研究活動、マーケティング戦略、国家運営方針、ライフスタイル、表現、構想、価値観、社会現象

(48ページより)

「人の企て」のコンセプトは、「私たちはなにもので、どんな志を持ったどんな存在なのかの定義」ともいいかえることが可能。大きくは、企業の経営方針なども含まれることになります。こちらも対象は、個人から数千人単位の集団まで多種多様。

「モノゴトの企て」のコンセプトは、商品やサービスのそれ。たとえばコンビニの棚に並ぶ商品のどれにも、なにかしらのコンセプトがあるわけです。

そして、いちばん実態がわかりにくいのが「思想の企て」のコンセプト。これは、「特定の人やモノゴトと一対一で対応するものではない、考え方や価値観そのものコンセプト」といった種類になるのだとか。

ビジネスでは「マーケティングのコンセプト」「デザインのコンセプト」「今年上半期の営業活動のコンセプト」のようなものが、そして国家運営では「所得倍増計画」のようなコンセプトもあてはまるといいます。

しかし、これはあくまで大まかな分類。実はよいコンセプトほどA「人の企て」、B「モノゴトの企て」、C「思想の企て」という区別を超越し、ひとつで複数の意味を取り込むことになるので、頭の整理程度の認識しておけばOKだそうです。(48ページより)


著者によればコンセプト・センスとは、その人自身の感性や価値観、経験や身体性などを総動員して行う営み。しかも特別な人にだけ与えられたものではなく、どんな人の価値観も、コンセプトを生み出す感性に変換できるのだそうです。自身の感情をより磨いていくために、参考にしてみてはいかがでしょうか?

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Source: WAVE出版