ご存知のように「マウンティング」とは、相手に対して自身が優位な立場にあることを誇示する意味合いで用いられることば。
たとえばSNS上では、自らの充実した生活をアピールし合う「マウンティング合戦」も盛んです。しかしその結果、マウンティングによって精神を疲弊させる「マウンティング疲れ」を感じる人が増えているのも事実。
そんな状況だからこそ、『人生が整うマウンティング大全』(マウンティングポリス 著、技術評論社)の著者による以下のメッセージが説得力を持つのは当然かもしれません。
自分らしく満ち足りた人生を送るうえで、不毛なマウンティング競争はできる限り回避すべきである。一方で、人間の行動の大半はマウンティング欲求によって支配されており、マウンティングから完全に逃れることはほとんど不可能である。だとしたら、マウンティングを一方的に否定するのではなく、「マウンティングは現代社会を生き抜くうえで必須の教養である」と肯定的に捉え、マウンティング人生を切り拓くためのツールと考えるほうが得策なのではないだろうか。(「はじめに 世界はマウンティングで動く」より)より
自分らしく豊かな人生を送っていきたいのであれば、まずは人間の内部に存在するマウンティング欲求を理解し、それをうまく味方につけることが大切だということ。マウンティング研究家として活用してきた著者の根底には、こうした考え方があるわけです。
そして本書においては、「マウンティング地獄」から脱出して「マウントフルネス」を謳歌するためのノウハウを明かしているのです。
重要なポイントは、「相手に“マウントさせてあげる”ことによって充分な敬意を示せれば、相手は自分に対してポジティブな印象を抱いてくれるようになる」という指摘。好意的な相手に対し、人は攻撃しづらいものだということです。
では、適切なかたちで「マウントさせてあげる」ためにが、具体的にどうすればいいのでしょうか?
著者によれば効果的な方法のひとつは、発言の冒頭に適切な「マウンティング枕詞」を加えること。「共感型」「尊敬型」「謙遜型」と3種あるなかから、ここでは相手の意見やアイデアに同意する態度を示す「共感型」に注目してみたいと思います。
1. まさに〇〇さんのおっしゃるとおりでして、
これはミーティングの際、相手の発言に対して「まさに〇〇さんのおっしゃるとおりで」と前置きしてから持論を述べる方法。「自分の発言に同意を示すこの人は、自分の見方に違いない」と相手が認識(≒誤認)してくれるため、議論をスムーズに進めやすくなるというわけです。
「まさに〇〇さんの仰るとおりでして、社員のモチベーション向上には組織風土の根本的な改善が欠かせないと考えております」
「まさに〇〇さんの仰るとおりでして、この製品の品質向上には新たなテクノロジーの導入が必要不可欠だと考えております」
「まさに〇〇さんの仰るとおりでして、私たちはこのプロジェクトに取り組む際に顧客の利益を最優先に考えるべきだと考えております」
(144〜145ページより)
いうまでもなくこのテクニックの本質は、前置きで相手に対してマウントポジションを提供すること。ある意味では、そのあとに続く内容はどうでもよく、とくに気にする必要がないようです。(144ページより)
2. その点については私もまったく同感です
「その点については私もまったく同感です」と前置きしてから持論を述べるというスタイル。こうすることで、議論をスムーズに進めやすくなるそうです。
「その点については私もまったく同感です。マーケティング戦略の成功には徹底的な市場調査が欠かせませんよね」
「その点については私もまったく同感です。働き方改革の推進には組織全体での意識改革が必要だと考えています」
「その点については私もまったく同感です。チームワークを強化するためには、コミュニケーション能力の底上げが重要なんですよね」
(145〜146ページより)
なお、冒頭に「まさにまさに」というようなことばをつけ加えると、威力が増す場合も。そのため、必要に応じて活用すればさらに効果的かもしれません。(145ページより)
3. おっしゃることは論点として極めて重要だと考えております
会議でトンチンカンな意見を述べてきた上司をスルーしつつ、議論を前に進める際に使える前置きフレーズ。「論点として極めて重要である」といわれているため、相手としてもこちらの意見に耳を傾けやすくなるわけです。
「仰ることは論点として極めて重要だと考えておりますが、一方で、従業員の福利厚生を改善するためにも、会社の収益性を向上させる策を検討すべきと考えています」
「仰ることは論点として極めて重要だと考えておりますが、一方で、社内の雰囲気を良くするためには、コミュニケーションスキルの向上が必要不可欠と考えております」
「仰ることは論点として極めて重要だと考えておりますが、一方で、イノベーションのスピードを加速するためには、研究開発への投資を増やすことが何よりも必要なことだと考えております」
(147ページより)
なお類似の事例としては、
「論理的には非常に正しいと思うのですが」
「極めて正論であるとは思うのですが」
「それは本当に良い論点ですが」
(146ページより)
などが挙げられるそうです。(146ページより)
著者がいうように、現代社会においては「マウンティングリテラシー」を身につけることが重要。そうすれば余計なストレスを感じる必要もなくなるのですから、本書をぜひとも活用したいところです。
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