タイトルからもわかるとおり、『どんなビジネスを選べばいいかわからない君へ』(村上 学 著、白夜書房)は起業を目指す方に向けて書かれたもの。しかし、ここにはよくある類似書籍とは異なる重要なポイントがあります。

それは、「ふつうの人が地道に稼げるようになること」に重きが置かれている点。

日本有数の会社をつくったり、まだ世の中にない商品やサービスを生み出せるのはごく一部の選ばれた人だけ。その他大勢である我々は、地道に稼ぐことに注力したほうが賢明だという考え方なのです。したがって、特別な才能は不要。誰でも正しい手順さえ踏めば、自身の選んだビジネスで稼げるようになるということです。

そのためにはとくに勉強する必要もなければ、新しいこともしなくていいのだとか。重要なのは、「成功事例をマネる=二番煎じを究める」ことなのだそう。

自らリスクやコストを負って仮説・検証していくのではなく、すでに結果が出ているやり方をそっくりマネるのです。これは勉強していない多くの経営者が(無意識のうちに)やっていることであり、そのエッセンスを抽出して言語化・整理しました。(「はじめに」より)

そのため本書に書かれていることを徹底できれば、失敗の可能性を限りなく小さくすることができるというわけです。

会社経営は先行きが不透明なものです。時代の変化は早く、消費者のニーズも多様化しています。正解は一つではなく、不確定要素も多い中、自ら意思決定をしながら前に進む必要があります。そんなとき、自分の中にブレない軸を持つことができれば、自信を持って前に進むことができます。(「はじめに」より)

つまりはそれが、本書で勧められている方法。でも、「二番煎じを究める」とはどういうことなのでしょうか?

本当に“勉強”はいらない?

世の中には多くの経営者が存在しますが、そのすべてがニュースやインタビューで取り上げられているような“目立つ人”だというわけではありません。だとすれば、表に出てこない経営者はどこで見つかるのかを知りたいところ。

そのひとつとして、著者の勧めている場所が商工会議所。地域の会社経営者や個人事業主の多くが集まる場所です。日本商工会議所によれば、全国で515の商工会議所がそれぞれの地域で活動しており(2022年4月時点)、会員数は125万にのぼるそう(2023年4月現在)。

もし、起業家=キラキラしている、成功者、あこがれの存在といったイメージがぬぐえないなら、一度、商工会議所に目を向けてみましょう。

地元といった特定の場所を起点にし、なおかつ決して派手ではない事業の経営者を見れば、勉強せずに起業するヒントが得られます。(19ページより)

もちろん起業家といっても、そのスタンスはさまざま。「親のあとを継いで」起業したり、「リストラされて食っていくためにしかたなく」独立したり、事業を始める土地を「たまたま生まれた場所だから」という理由で選ぶ人もいるわけです。

しかも、すべての人が成功するわけでもなく、たまたまうまくいく人がいる一方、成果が上がらず失敗する人も。同じ商店街にある昔ながらの惣菜屋はずっと続いているのに、隣に新しくできたからあげ専門店はすぐに潰れてしまったというようなケースは珍しくないのです。

とはいえ、両者の明暗を分ける差は勉強不足や商品力によるものだとは限らないようです。固定費の有無(総菜屋は住居件店舗で家賃が発生せず、家族経営で人件費もタダ。からあげ専門店は居抜き物件を借りてアルバイトを雇っていたなど)という、ちょっとした差だったりすることもあるのです。

起業する際に不退転の覚悟があったのか、徹底的に市場調査をしたのか、必要な知識はすべて学習したのかなどは、企業の成否にはほとんど影響を与えないということ。商工会議所を通じて実際の経営者の声に触れれば、そうしたことを実感できるのでしょう。(18ページより)

地道に稼ぐ人たちの共通点に注目する

起業には、生きるか死ぬかというように極端なイメージがついてまわるもの。根性論が大好きな日本人には、「清水の舞台から飛び降りる覚悟でやる」盗用な考え方が刺さるのかもしれません。しかし著者は、そうした発想は捨ててしまうべきだと主張しています。

もちろん日々の努力は欠かせないものの、そんな意気込みだけで臨む経営者ばかりではなく、無理にリスクを負う必要もないからです。

ひと昔前、「起業するからには与信枠(利用限度額)を使って借金しろ!」というメッセージが広く出回ったことがありました。私はそれを真に受けて破産していった若者を何人も知っています。

起業にかぎらず、どの業界にもオピニオンリーダーがいるので、強いメッセージは浸透しがちです。でも、プレッシャーをプラスに変えて伸ばせる人ばかりではなく、プレッシャーに勝てず凝り固まってしまう人もいます。(21〜22ページより)

実際のところ、世の中には“大成功でもない、大失敗でもない、地味なストーリー”がたくさんあるもの。誰にもわかりやすい華やかな成功劇がある一方には、「見よう見まねで始めた結果、気がついたら創業30年」というような会社も、実際のところ山のように存在しているわけです。

しかも、細部の違いこそあれ、それらは大筋が同じストーリーを持っているものでもあると著者はいいます。決して意識的ではないにせよ、同じ思考プロセスをたどっているというのです。

つまり、その勘どころをうまくつかむことさえできれば、地道に稼ぎ続けることは可能だということ。だからこそ、目につきやすい情報にばかり目を向けるべきではないのかもしれません。(20ページより)


起業とはいっても、個人レベルの副業から独立開業、チーム(組織)で始めるパターンなどスタイルは多種多様。

そんななか著者が「ひとりで小さく始めること」を勧めているのは、不要なリスクやコストを避けるべきだから。そしてそのためには、過去の成功例をマネることが重要だというわけです。起業を目指している方にとって、そんな本書は参考になるかもしれません。

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Source: 白夜書房