春は別れと出会いの季節。3月末を区切りに退職をする人、また4月から転職する人も多いと思います。

キャリアアップを目指して新しい会社に移るチャレンジ、ぜひ頑張ってほしいですが、退職する前に忘れずにやっておくべきことが1つあります。それは「iDeCoや会社の確定拠出年金の手続き」です。

ただの退職金制度の場合、金額を説明されて(自己都合退職の場合数割減らされることが多い)、受取口座を確認する作業が退職時にあります。ところが、企業年金制度(確定給付企業年金、確定拠出年金)の場合、ただ現金をもらうだけではない選択肢が生じます

特に、確定拠出年金の場合、現金をもらう選択肢は60歳以降の退職に限られます。

また、iDeCoに入っている人の場合、勤めている会社の状況によって積み立てられる金額の上限が違ってくることがあり、手続きを必要とする場合があります。

今回はこんな話をしてみたいと思います。

もちろん、このテーマ、何月の退職であっても使える内容なので、転退職をされるタイミングで「そういえば記事をライフハッカーで読んだなあ…」と思い出して検索していただければと思います。

iDeCoをやっていた人は退職時の手続きが必要かも

まず、iDeCoをやっていた人の場合、手続きが必要になります。転職をした会社が確定拠出年金があった場合ですが、資産と口座の引き継ぎに関する基本的なパターンはこうなります。

転職前: iDeCo

■パターン1. 転職後

新しい会社が企業型確定拠出年金をやっていた場合、資産を移して一元化する→入社した会社の総務部等に意思を伝える。

パターン2. 転職後

あえてiDeCoはそのままにしておく→運営管理機関に対し、自分で勤務先が変わったことについて手続きをする。

※上記どちらかを選択できる

かつては「確定拠出年金の口座は1つ限り」の原則が優先だったので、会社に企業型の確定拠出年金があった場合、一元化をしなければなりませんでした。

しかし今は「企業型の確定拠出年金とiDeCoは1つずつ持てる」ようになっていますので、口座をひとまとめにするか、併用するか検討してみてください。

新しい勤務先に確定拠出年金がないか、しばらくは会社員にならない場合などは、iDeCoのままでいいのですが、手続きをしてもらうことになります。

iDeCoにいくら積み立てができるかは転職の状況によって変わる

Image: Getty Images
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iDeCoこと個人型確定拠出年金は、個人が任意で加入し自分で毎月の掛金額を設定する仕組みのため、会社の離転職とは無関係のような感じがします。

ところが、「会社の企業年金制度の有無」などの働き方によってiDeCoの掛金の上限額が変わってくる仕組みなので、退職、新しい会社に就職したときなどは、毎月積み立てられる掛金の上限が変化することがあります。

それどころか、新しい会社の企業年金が充実をしている場合、本人がiDeCoで使える非課税枠が残っていない(iDeCoに積立できない)ということもあります。

iDeCoの積立額については、新しい働き方で判断しますが以下のとおりです。

自営業者、無職、フリーランス等で国民年金保険料を納める

月0.5〜6.8万円まで

会社員で、企業年金のない会社に勤務

月0.5〜2.3万円まで

会社員で、確定給付企業年金のある会社に勤務

月0.5〜1.2万円まで

会社員で、企業型確定拠出年金のある会社に勤務

月0.5〜2.0万円まで(企業型の確定拠出年金の掛金との合計で月5.5万円を超えない)

会社員で、確定給付企業年金と企業型確定拠出年金が両方ある会社に勤務

月0.5〜1.2万円まで(企業型の確定拠出年金の掛金との合計で月2.75万円を超えない)

※2024年11月まで。12月からは拠出限度額のルールが一部変更になります。

自分のケースがどれに当たるかわからない、あるいは会社の制度の掛金額がわからない場合などは、運営管理機関のコールセンターもしくは転職先の確定拠出年金のサポートウェブページで確認をしてください。

掛金額について気をつけなければいけないのは、「今までは月2.0万円まで積み立てられたけど、転職後は月1.2万円までが上限になる」のように上限が下がる人です。システム側でも「上限以上の掛金納付」にならないようなチェック体制はありますが、原則として自分で手続きをするようにしてください。

上限を超えての納付が見過ごされることはなく、さかのぼって還付等で戻ってくることになります。

なお、変更の手続きはiDeCoの運営管理機関に書類提出となります。

>>iDeCo加入資格&掛金額を診断する

転職をする人は会社の確定拠出年金の手続きもお忘れなく

Image: Getty Images
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iDeCoではなく、会社が実施している確定拠出年金に加入していた場合、60歳前の退職であればそのタイミングで会社の制度から外れることになります。

この場合、別の制度に資産を移す必要があります(ポータビリティ制度)転職先が確定拠出年金制度を実施しているかで選択肢があります。

転職前:企業型確定拠出年金

■パターン1. 転職後

転職後:新しい会社が企業型確定拠出年金をやっていた場合、資産を移して一元化する→入社した会社の総務部等に意思を伝える。

■パターン2. 転職後

転職後:iDeCoに資産を移す→運営管理機関に対し、iDeCoの口座開設手続きを行う際に、資産の引き継ぎを伴うことを伝える。

※上記どちらかを選択できる(転職先に企業型の確定拠出年金があった場合も、iDeCoに移すことは可)。

この手続き、「自分で」行うことが原則で、辞めた会社は書類を渡してくれることはあっても手続きを代行してくれません。

さらに、未手続きのまま半年が経過すると自動的にiDeCoのほうに資産が移されます(自動移換)。「…じゃあ、手続きしなくてもいいか」というとそうではなく、iDeCoの金融機関は選んでいない状態で、ただ単純に現金が移され管理されることになります(自動移換という)。

しかも自動移換の際に4348円の事務手数料口座管理手数料も月52円引かれ、あわててiDeCo口座に移すとさらに2929円引かれることになります。そのうえ、利息も運用収益も1円も増えません。

はっきりいっていいことがありませんので、退職して書類が揃ったところでスムーズにiDeCo口座への資産の移行をしておきましょう

iDeCoの掛金枠は1つ前の項目と同様です。あえてもう1つ選択肢を示すとすれば、「毎月の積み立てはゼロにしてiDeCoに残高だけ移す」という選択肢もあります。

口座管理手数料はかかるので、あまりおすすめはできませんが、一回無職になる時期が生じた場合などは、積み立てをストップすることもできると覚えておきましょう。

利用率は低いがこんな移し方もあります

あまり利用率は高くありませんが、転職時にもう1つ移せる先があって、企業年金連合会の通算企業年金というものがあります。

企業年金連合会が、資産を預かり、管理運用をし65歳から年金支給をしてくれる仕組みです。運用のことはもう考えなくてよくなりますし、終身年金でどんなに長生きしてももらい続けられます。また、少なくとも15年分の年金額は受け取りが保証されています。

資産を引き継ぐ最初に一度、事務手数料を払い、その後の運用管理には手数料が生じません。45歳より若い人が移した資産については年1.25%の利回りが保証されており、運用実績によって上積みされることもあります。

確定給付企業年金をやっている会社の場合、退職時に現金を受け取らず制度間のやり取りで企業年金連合会に移すことができます。この場合、企業年金の担当者に希望を伝えます。

企業型の確定拠出年金も退職時にiDeCoに移さずに、企業年金連合会に移すことができます。この場合、自分で確定拠出年金の運営管理機関に手続きをするか、企業年金連合会に対して手続きをします。

資産を移す際に引かれる手数料と、将来の年金受取額のシミュレーションは企業年金連合会ウェブサイトでできますので、気になる人はチェックしてみてください。

気をつけたいのはやはり確定拠出年金の手続きミス

この中で、受け取りミスがもっとも発生しやすいのが企業型の確定拠出年金です。

iDeCoは自分の口座という意識がありますし、手続き漏れは積立に影響するのみです。確定給付企業年金は資産を移さない場合、現金でもらう手続きをしますから、これまた手続き忘れということも起こりにくくなっています。

ところが会社の確定拠出年金制度の場合、会社は退職時の説明をして終わり。金融機関サイドも書類の郵送案内のみということがあり、気がつけば半年経過ということが多いといわれています。

実際、2023年度には、108万人分2500億円以上の資産が塩づけ状態に。気がつけば、残高ゼロになっていたというケースもあるようです(事務手数料を毎月引かれたため)。

新生活や新しい職場に慣れるために忙しい日々を送っていくとき、確定拠出年金の手続き問題が出るのはやっかいではありますが、忘れずに(できれば思いついたらすぐに)手続きをしておきましょう

もしiDeCoの金融機関選びに迷ったら、口座獲得の実績が上位である楽天証券かSBI証券を検討候補としてみてはどうでしょうか。大きな不利益はないと思いますよ。比較検索サイトもあります。

山崎俊輔

フィナンシャルウィズダム代表。ファイナンシャルプランナー。夫婦で共働き、共家事、共育児しながら子どもふたりを育てている。

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Source: iDeCo公式サイト(1, 2) ,労金, 企業年金連合会