ビジネスでもプライベートでも、「相手の心を動かすことができれば、もっとうまくいくのに」と、もどかしい経験をしたことのある方は少なくないかもしれません。では、どうすればいいのか? この疑問に対し、『心に刺さる、印象に強く残る 超・引用力』(上野陽子 著、青春出版社)の著者は次のように答えています。

自分の言葉にもっと信頼性を与え、人の心に刺さり、相手に行動を促すためのコツが本書でお伝えする「引用力」です。

私はコミュニケーション・アナリスト、翻訳家として仕事をし、これまで世界中のあらゆるスピーチやさまざまな人の言葉、コミュニケーションを研究してきました。

私自身、さまざまな人の話からたくさんのことを学ぶ中で感じたのが、人の心を動かすことができる話し手には、ある共通点があることです。

そのひとつが「引用がうまい」ということでした。(「はじめに」より)

一流の話者として知られたスティーブ・ジョブズがそうであるように、卓越した話し手には特徴があるもの。それは、自分の伝えたいことばや話に「引用」を加えて内容を補強し、鮮明なイメージを残し、信頼性を高め、シンプルに、本質を突いた話に仕上げていくことだというのです。

ひとつのフレーズを生かすことで、心に響くストーリーを生み出し、人を動かすことができるようになります。

情報を発した人や媒体の、背景や言葉の力を話の流れで生かせた瞬間、まるで味方が援護してくれるかのように、内容が力を帯びて魅力的に変わっていくものです。(「はじめに」より)

ただし本書で著者が強調する「引用力を高める力」とは、ただ名言やセリフを用いるというだけのことではないそう。伝えたいことを深く相手の心に残すため、“聞き手に合った”あらゆる“効果的な”引用をすることが重要だというのです。

こうした考え方に基づく本書のなかから、きょうは引用の引き出しのつくり方やインプット、アウトプットの方法を解説した第5章「『引用の引き出し』を作る習慣」に注目してみたいと思います。

「気にとめる」という習慣

引用を活用するためには、当然ながら「引用の引き出し」をつくることが大きな意味を持ちます。必要なときに必要なことばが出てくるように、多くの引き出しを用意しておくわけです。そこで大切なのが、「気にとめる」習慣を持つこと。「気にとめる」ことは、思いのほか情報収集に効果を発揮するものだというのです。

私たちの周囲には活字や音や映像など、さまざまな情報があふれています。そのため、それらと接した際には気になることばや情報が飛び出してくるかもしれません。しかし、普段から「気にとめる」「見る・聞く」という習慣を身につけていないと、それらはするっと流れていってしまうかもしれません。

隣を歩いていた友達が「このお店、さっきも支店があったよね」や「この飲料のポスター、さっき見たのと違う写真だね」といったときに、自分は気づかなかったという経験がある方もいることでしょう。たまたま他のものを見ていたのかもしれないし、何も意識していなかったのかもしれません。

何か目的があって探すわけではないときも、日々自分の琴線に触れる情報や言葉が集められるような感覚は、ぜひ研ぎ澄ませておきたいところです。(175ページより)

「気にすることを、気にしておく」だけで、いろいろなことばや情報が蓄積されていくということです。(174ページより)

テーマを持ってまわりの情報を見る

なにかを意識しはじめた途端、驚くほどそれにまつわる情報が入ってくるようになったりするものです。同時に頭のなかでもあれこれ考えることになるので、意識したもの同士がつながっていき、新しいアイデアが生まれてくるというような相乗効果も期待できそうです。

ところが、意識することをやめると、その対象は興味の範疇から外れてしまいます。そのため、目に入らなくなってしまう。正確にいえば、「目には入っていても“見てはいない状態”」になってしまうわけです。

自分が言葉や情報を集めようとしたときには、意識をして「見る」「聞く」ことが、とても大きな力を発揮するものです。

万有引力を発見したアイザック・ニュートンは、「どうして万有引力を発見することができたのか?」と聞かれたとき、「常にそれを考えることによってです」と答えたとされています。

レベルの違いはあっても、「気にとめるだけ」で、情報や言葉のほうから「ここにあるよ」と声掛けをしてくれるものなのです。(177ページより)

もちろんそれは、引用することばにもあてはまるはず。常に周囲を意識していることで、無意識のうちに有用なことばや情報が蓄積され、それらが必要なとき頭に浮かんでくるようになるということです。(176ページより)

テーマを持つことを習慣にする

脳は、自分が重要だと思っているものをフィルタリングして、認識していると言われています。

ですから自分が今どういうテーマ、目標、目的……を持っているかを意識することで、より自然にその情報を自分の中に取り込んでいけるようになります。(178ページより)

そういった習慣を身につけることができれば、いままで見過ごしていたものに目がとまるようになり、普段なら目も行かない事象にふと出くわすことができるようになるわけです。

「プレゼンをする」「人前で話す」ならば、そのプレゼンのテーマに関わる情報を意識して街歩きをしてみます。

たとえば本屋さんに行ってみるとしましょう。

すると、本の帯にはたくさんの“本を売るため”に効果的な表現が並んでいます。それをヒントに引用できそうな言葉をピックアップする。あるいは、街の電子ヴィジョンに流れるニュースや映像にも何かいい情報があるかもしれません。

ただテレビをつけていても、意識をしていると、ふと情報が耳に飛び込んでくるようになります。(179ページより)

だからこそ、日常的に情報を集めたり、本や雑誌に目を通したり、スマートフォンを眺めたりして、気になったことばやセリフを書きとめておくべきだということです。(178ページより)


本書を通じた最終的な目標は、「自信の伝えたい内容を、より効果的に伝えること」だと著者は述べています。たしかにその結果として、おもしろく、よりパワフルで、説得力の高い話に仕上げることができたら、コミュニケーションの質は格段に高まることでしょう。

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Source: 青春出版社