健康診断を受ける必要はあるのか。医師で作家の久坂部羊さんは「症状の早期発見ができる一方で、無駄も。このような実態を知ったうえで判断すべきだ。ちなみに私は受けていない」という――。

※本稿は、久坂部羊『健康の分かれ道』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

患者の胸に聴診器をあてる医師
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腹膜炎を起こしている人が健康診断に来るはずもない

健診のコースによっては、胸の聴診のあと、診療台に横になってもらい、腹部と下肢の診察をします。仰向けの状態で軽く膝を曲げ、検査着の前を開いてもらい、まずは打診をします。

左手を腹に当て、右手の中指でスナップを利かせて、左手の中指の第一関節をトントンと叩たたきます。これでいったい何がわかるのか。皮膚の下が実質であると鈍い音、液体だと柔らかい音、空気だと太鼓のような音がします。場所によって音がちがうので、受診者はいかにも何か診断してもらっているように感じるでしょうが、実際は何もわかりません。

腹水が溜っていると、波動を感じることもありますが、そんな人は健康診断には来ません。

打診のあとは左右の季肋きろく部(肋骨の下縁)に手を当て、お腹を膨らませるような呼吸をしてもらいます。そうすることで、右側は肝臓、左は脾臓の腫れを診断するのです。超音波診断をすればもっと簡単に、もっと正確にわかるのになと思いながら、真剣な顔でやります。いい加減だとすぐ相手に伝わるからです。

最後に、下腹部を指でぎゅうっと押さえて、パッと離します。それでビクッと痛みがあると、腹膜刺激症状といって、腹膜炎のサインです。しかし、腹膜炎を起こしている人が健康診断に来るはずもなく、ほぼ全員が「痛みはないです」と答えます。こんなこともサービスでしてあげることで、受診者はしっかり診てもらっていると感じるのです。

医者の側も、自分たちが特殊技能集団に所属していることの証明になるので、まったくのパフォーマンスですが、だれもやめようと言い出しません。