サイエンス

統合失調症などの患者に幻覚や妄想を引き起こす脳のネットワークがAIを使った研究で明らかに


幻覚や妄想といった症状群を指す「psychosis(サイコーシス、精神症)」は、統合失調症などの重篤な精神疾患によくみられるほか、定義された精神疾患とは独立して発生することもあります。脳スキャンとAIによるパターン分析を組み合わせた新たな研究により、サイコーシスを引き起こす脳内のネットワークが明らかになりました。

Robust and replicable functional brain signatures of 22q11.2 deletion syndrome and associated psychosis: a deep neural network-based multi-cohort study | Molecular Psychiatry
https://www.nature.com/articles/s41380-024-02495-8


Two key brain systems are central to psychosis, Stanford Medicine-led study finds | News Center | Stanford Medicine
https://med.stanford.edu/news/all-news/2024/04/brain-systems-psychosis.html

AI pinpoints where psychosis originates in the brain | Live Science
https://www.livescience.com/health/mind/ai-pinpoints-where-psychosis-originates-in-the-brain

サイコーシスを経験する患者は、あるはずもない物や人を見たりその声を聞いたりする幻覚や、現実にはあり得ないことを事実だと信じ込む妄想にとらわれてしまいます。これらの症状は統合失調症などの患者に大きな悪影響を及ぼすため、一体どのようなメカニズムが症状を引き起こしているのかを知ることは重要です。

しかし、サイコーシスを引き起こす原因を脳スキャンなどで研究するのは困難だとのこと。その理由のひとつに、これらの患者は長期間にわたり抗精神病薬を服用していることがほとんどであるため、症状に関連する脳の変化と薬による脳の変化を区別するのが難しいということが挙げられます。


そこでスタンフォード大学などの研究チームは、22q11.2欠失症候群と呼ばれるまれな遺伝性疾患でサイコーシスを発症した6~39歳の患者を対象に、脳細胞の活動に対応する血流の変化を追跡する機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた脳スキャンを実施し、サイコーシスを経験する人の脳にみられるパターン分析を行いました。22番目の染色体の一部がわずかに欠失する22q11.2欠失症候群は心臓の異常やADHD、自閉症といった疾患のリスクを上げるほか、サイコーシスや統合失調症を抱えるリスクが30%あることが知られています。

研究チームは22q11.2欠失症候群の患者101人に加え、22q11.2欠失症候群を持たないサイコーシス患者や自閉症、ADHDの人々、そして健常な対照群を含む合計約900人分の脳スキャンデータを収集しました。比較のためにADHDや自閉症患者の脳スキャンデータを収集したことで、サイコーシスに特有のパターン分析が可能になったとのこと。


研究チームはスタンフォード大学のコンピューターサイエンティストと協力し、fMRIの脳スキャンデータからパターンを見つけ出すためのAIアルゴリズムを開発。このAIアルゴリズムにより、22q11.2欠失症候群のサイコーシス患者や独立したサイコーシス患者に共通する脳活動パターンを特定することができたと報告しています。

AIアルゴリズムによる分析の結果、サイコーシスを持つ患者の脳では外界の刺激を処理する役割を担う「顕著性ネットワーク」と呼ばれるネットワークに、特徴的なパターンがみられることがわかりました。顕著性ネットワークの中でも、特に重要でない情報をフィルタリングする島皮質前部と、情報がもたらす報酬を予測する腹側線条体という2つのノードが、サイコーシスに関連していたとのことです。

今回の研究結果は、サイコーシスが生じるメカニズムについての理解を深めるだけでなく、サイコーシスや統合失調症の予防にも役立つ可能性があります。スタンフォード大学の精神医学・行動科学准教授で論文の筆頭著者を務めるカウストゥフ・スペカル氏は、「私の目標のひとつは、統合失調症の発症を予防または遅らせることです」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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