紫式部の生涯を描く大河ドラマ「光る君へ」(NHK)は、これからどんな展開になるのか。古典を題材にした著作の多い大塚ひかりさんとコラムニストの辛酸なめ子さんは「紫式部の家は経済的に困っていたようだが、年上の男性と結婚したのは、金銭的理由だけではないのでは」という――。
土佐光起筆「紫式部図」
土佐光起筆「紫式部図」(画像=石山寺所蔵/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

ドラマでは紫式部と道長が町中の市場で出会った

――「光る君へ」で描かれたように、紫式部(吉高由里子)は藤原宣孝(佐々木蔵之介)と結婚する前、道長(柄本佑)と恋愛関係にあった可能性はありますか?

【大塚】「ありえない」と思いました。まず、その時点で道長と紫式部が出会うような接点がない。ただ、「絶対にない」とも言い切れないので……。辛酸さんはどう思いました?

【辛酸】ドラマでは、どこかのお屋敷ではなく、町中のお祭りをやっている広場みたいなところで知り合いましたよね。屋外で猿楽を上演していて、それをお互い見に行って。

【大塚】2人とも貴族なのに、ふらりと見に行っていましたね。私はすごい発想だなと思っていました。

【辛酸】紫式部と道長は、住んでいたところも離れていたんですか?

【大塚】そう言われてみると、紫式部の曾祖父(藤原兼輔)の邸も、道長がいたとおぼしき東三条殿も、当時の御所からわりと近いので、そんなに離れていないかもしれない。ただ、紫式部の家は中流とはいえ、貴族の姫君がそんなに軽々しく出歩いたりはしなかったと思いますよ。

さすがに庶民の店で代書屋をすることはありえない

【辛酸】ドラマだからできたシチュエーションですね。紫式部は町の店で代書屋なんかもしていたし。

【大塚】当時、歌があまり上手く詠めない人の代わりに詠むということはありましたし、字の上手い人で代書をアルバイトのようにしていた人もいましたけれど、貴族の姫が庶民の店で仕事を請け負うというのは、ちょっと考えられませんね。でも、紫式部って、『源氏物語』を書いたことでもわかるように「なりきり能力」の高い人。いろんな人の立場になって考えるのが得意だから、代書をするというのは、フィクションとして面白い発想だと思いました。

【辛酸】ドラマの設定としては、これが伏線で、他人のラブレターを代筆するのが小説を書く練習になったということなのかもしれないですね。