カレーライスを食べる際にトイレの話をされると不快感を覚えるのはなぜなのか。名古屋大学の川合伸幸教授は「人間はモノに対して別のモノを投影することがある。塩化ビニールでできた食品サンプルにも食欲を覚えるのと同じ原理だ」という――。

※本稿は、鈴木宏昭・川合伸幸『心と現実』(幻冬舎新書)の第4章「意味に彩られた『モノ』」の一部を再編集したものです。

Japanese curry rice
写真=iStock.com/ken6345
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食品サンプルに本物の食品を重ね合わせる

この章では表象がモノへ投射される事例を見ていく。

プロジェクションは自身や他者だけでなくモノに対してもなされる。これまでに述べてきたように、目の前のコップの表象は自分がそれに対して持っている信念(それの重み、その中に入っている液体等々)と一緒になって、目の前の実物のコップにプロジェクションされる。すでに知っているモノを見るときには、それまでの知識や経験が多少なりともモノに反映されて見ているのだ。

本物と見まがうほど精巧にできた食品サンプルを見ておいしそうと感じるのは、私たちが塩化ビニール(かつてはろうで製作された)に食欲がかき立てられるのではなく、そのサンプルが表している「本物の食品」に食欲を感じるのである。つまり食品サンプルに、本物の食品のフィルタを重ね合わせている(プロジェクションしている)のだ。

このようななんでもない日用品に対して、多くの人が同じように行うプロジェクションもあれば、形見や思い出の品のように、それぞれの人に固有なプロジェクションもある。また、食品から食品サンプルへというモノからモノへのプロジェクションもあれば、形見や遺品のようにある人の属性や思い出がモノへプロジェクションされるようなものもある。

この章では、さまざまな種類のモノが関わるプロジェクションを整理し、その後、それらのプロジェクションの詳細について述べる。