精神科医が教える「静かな人」のすごい力』(大山栄作 著、SBクリエイティブ)の著者は、ニューヨークで年間のべ1000人以上の患者さんと向き合っているという精神科医。アメリカは“超外向型社会”であるため、活発なタイプだと思われることも少なくはないようですが、実際はおとなしくて恥ずかしがり屋なのだとか。

なのになぜ、10年以上アメリカで働けているのでしょうか?

それは、紆余曲折を経た結果、「自分らしく」、つまり「内向型らしく」いられるようになったからだそう。

他の人より劣っているわけではなく、ただ違うだけ。外向型には外向型の個性があり、内向型には内向型の個性がある。つまり、「それぞれの持ち味を活かしていけばいいのだ」と思えるようになったというわけです。

内向型が苦しんでしまう本当の理由は「内向型だから」ではなく、内向型なのに「無理に外向型を演じようとしてしまう」ことにあるのです。(「プロローグ 騒がしすぎるこの世界に潜む『静かな才能』」より)

だからこそ、内向型には数多くの「選ばれた才能」が秘められていることを知ってほしいと著者はいうのです。「内向型ならではのやり方」に立ち戻り、内向型の「潜在能力」を存分に覚醒させてほしいとも。

ちなみに著者は内向型の「潜在能力」、すなわち潜在的に持つ8つの力として「冷静さ」「思慮深さ」「洞察力」「客観力」「独創性」「集中力」「傾聴力」「共感力」を挙げています。

きょうはそのなかから、「集中力」に焦点を当てた第6章「集中力――外見の静かさと相反する『内面のパワー』」をクローズアップしてみたいと思います。

静かな人の「超・集中力」

内向型の人の「集中力」が高いのは、自分の内側に意識を集中させやすい脳構造になっているから。著者はそう述べています。

テスラやスペースXの創業者であるイーロン・マスクは、アメリカでは内向型として有名ですが、仕事に没頭するあまり、週に120時間以上働き、常に睡眠不足なのは有名な話です。(210ページより)

自信に満ちたスピーチで知られますが、それは訓練の賜物。事実彼は、「基本的に、私は内向型のエンジニアだ。壇上でスピーチをする際に吃音が出ないようにするため、苦労して訓練を積んだ。……CEOとして、避けては通れなかったからだ」語っているそうです。(210ページより)

内向型が持つ「エネルギーを内に向ける力」

内向型と外向型では、情報処理の方法が違うそう。内向型の人と外向型の人の血液は、脳内でそれぞれ違った経路をたどるというのです。

内向型の人の情報処理の経路は、より複雑で、内部に集中しています。

内向型の人の血液は、記憶する、問題を解決する、計画を立てるのに関わる脳の各部へと流れます。経路は長く複雑です。ですから、内向型の人は思考を重ねたり、細かい情報をまとめて抽象化したりする能力に長けており、長期的なプロジェクトを計画して実行するのが得意です。

対照的に外向的な人の血液は、視覚、聴覚、触覚、味覚(嗅覚は除く)が処理される脳の各部へ流れていました。彼らの主要な経路は短く、複雑ではありませんでした。そのため、外部の出来事への反応は速いのですが、思い付きで行動するケースも少なくありません。(214〜215ページより)

両者の情報処理の大きな違いは、「外部からの刺激(情報)に対して意図や解釈を加えてから記憶し、処理・反応に結びつけるかどうかにあるそう。

内向型の場合は情報・意味づけ、計画・記憶・問題解決を扱う脳の領域を移動するので、移動領域も多くなることに。意味や解釈を加えるには意識を自分の内側に集中させる必要もあるでしょう。内向型は外向型の経路よりも40%多くのエネルギーを使用するとの報告もあるといいます。

内向型が集中力に優れているのは、自分の内側に意識を集中させやすい脳構造になっているからだといえると著者はいうのです。(214ページより)

なぜ静かな人は「驚異的な集中力」を発揮するのか?

著者によれば、内向型の人は外向型の人にくらべて集中力が高いようです。それは、脳の網様体賦活系(もうようたいふかつけい)の働きの違いによっても説明できるのだそうです。

網様体賦活系とは、外部からの刺激を最初に処理し、脳に伝える部位。大脳皮質の覚醒を引き起こしたり、脳内の情報を仕分けするなど、検索エンジのような働きも担っているのだといいます。

たとえば、なにかを見たとき「これ、3年前にも見たことがあるぞ」というように思い出せるのは、網様体賦活系が古い記憶を呼び起こしているから。また、赤いコートが欲しいなと思って街を歩いているとき、赤いコートを着たひとばかり意識してしまうのも網様体賦活系の働きによるもの。

これまでの研究では、内向的か外向的かは網様体賦活系の個人差によって決まるとされています。内向的か外向的かは網様体賦活系によって引き起こされる大脳皮質の覚醒と静止によって説明できると理解されています。内向的な人は覚醒レベルが高く、外向的な人は制止レベルが高いと考えられています。(217ページより)

内向的な人のほうが刺激に対して敏感なので、大脳皮質は少しの刺激でも過剰に覚醒しやすい構造になっているといいます。そのため、過剰な興奮を避けるために刺激を可能な限り避ける傾向があるわけです。

一方、刺激に対して鈍感なのが外向的な人。大脳皮質の覚醒が遅かったり、覚醒状態になってもすぐに覚醒が治ったりするというのです。したがって、通常の刺激では外向型はすぐに退屈してしまって満足できず、より強い刺激を求めて活動的になるようです。

このように、刺激を抑える仕組みになっているのが内向型の脳。網様体賦活系が刺激を回避して、集中力を発揮できる環境を整えているということです。(216ページより)


外向型であろうが内向型であろうが、人はそれぞれ独自の感性を持っているもの。だからこそ内向型の人も、「自分らしさ」「内向型らしさ」を失うことなく、自分だけの個性を活用しながら社会を生きていくべきなのでしょう。

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Source: SBクリエイティブ