自分の固定観念や信念が、記憶する内容を規定しているのはご存じかと思います。心のフレームにもとづく体験の処理は、職業の選択にまで影響し得るものです。
オハイオ州立大学の研究者、Zachary Nieseさんらによる研究では、体験が心のフレームに合わせて記憶されるとの証拠を示しています。
さらに研究では、バイアスに対抗するためのテクニックを発見。
このテクニックは、将来の活動へのモチベーションを見つけるのにも役立つものです。
「意味づけ」によって体験への評価が変わる
研究では、253人の学生に対してまず科学への関心の高さを調査。そのうえでゲームをプレイして評価してもらいました。
ゲームの内容は、「草、羊、オオカミの数を操作してバランスのとれた生態系を作り出す」といったシミュレーション系のもので、自分でコントロールできる面白いバージョンと、あらかじめ決められた設定をこなす退屈なバージョンが用意されています。
まっとうにいけば、前者をプレイした被験者は面白いと評価し、後者をプレイした被験者は面白くないと評価するところですが、科学への関心に働きかけることで、被験者のゲームに対する評価を変えることができたといいます。
評価の前に被験者には、ゲームを科学的に意味づけするような文章が提示されました。
これによりゲームへの評価は、面白いバージョン・退屈なバージョン、どちらをプレイしたかに関わらず、科学への関心の高さと一致する傾向がありました。
つまり、科学への関心の高い被験者はゲームを面白いと評価し、科学への関心の低い被験者は面白くないと評価したのです。
この実験からは、被験者があらかじめ持っていた科学に対するフレームが、体験への印象をゆがめたといえそうです。
研究ではさらに、こうした信念によるバイアスへの対処法も発見しています。
本人視点の写真を用いてバイアスに対抗
実は、ゲームをプレイした直後、科学的な意味づけを加える前に、被験者には数枚の写真を見てもらっています。
写真は、こぼれたものを拭き取る…といったごく日常的な場面を撮影したもので、本人視点で撮影したもの、第三者の視点で撮影したものの2タイプが用意されています。
被験者にはどちらかのタイプの写真を見てもらい、それぞれのシーンを思い浮かべてもらいました。結果は以下のように分かれたといいます。
- 第三者視点の写真を見た被験者:科学への関心の高さとゲームへの評価が一致する傾向があった
- 本人視点の写真を見た被験者:科学への関心の高さに関係なくゲームをまっとうに評価する傾向があった
写真のシーンを思い浮かべることによる効果についてNieseさんは、本人視点では過去の体験をどのように感じたのかに注意が払え、反対に第三者視点ではより抽象的な心のフレームに影響を受けやすくなると結論づけています。
さらには、面白いバージョンのゲームをプレイし、本人視点の写真を見た被験者には特別な効果が見られたようです。
将来的な活動への関心を高める効果も
面白いバージョンのゲームをプレイし、本人視点の写真を見た被験者グループに関しては、ほかのグループよりも将来の科学的な活動に対して高い関心を示す傾向がありました。
たとえば、“自分は科学に興味がある”と信じる子どもが、面白い科学の実験に参加し、直後に主観で視覚化することで、“将来は科学に関わる職業に就こう”とのモチベーションに着火する可能性があります。
反対に、科学に対して苦手意識を持っている子どもや、“科学は男性向け”との固定観念を持っている女の子は、せっかくの面白い体験も正確に記憶されることなく、モチベーションの火種は消えてしまうかもしれません。
“貴重な体験をした”というときに、すかさず「主観での視覚化テクニック」を用いれば、信念の影響を受けずに記憶したり、興味を伸ばしたりできそうです。
──2023年6月19日の記事を再編集のうえ、再掲しています。
執筆: 山田洋路
Source: MedicalxPress