老後の年金生活を充実して過ごすにはどうすればいいか。精神科医の保坂隆さんは「たいていの人は『老後の人生をエンジョイする資金』はそう潤沢ではない。だからこそ企業経営ではよく使う『選択と集中』を『年金生活』にも採り入れるといい。自分の好きなことにある程度のお金を使い、それで気持ちが満たされれば、ふだんは『粗衣粗食』でも精神的に貧しくなることはない」という――。

※本稿は、保坂隆『楽しく賢くムダ知らず 「ひとり老後」のお金の知恵袋』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

貯金箱にコインを入れる高齢者
写真=iStock.com/AaronAmat
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この先は美しくて優雅な節約生活をめざしましょう

老後、それも「ひとり老後」の不安となると、お金のことを第一に挙げる人が少なくないでしょう。

実際、私のクリニックにやってくる方からは「先生、この先、いつお金が底をつくか、不安で不安で……」という声をよく聞きます。

そんな人に「いくらあれば、不安を感じないで済みますか?」と尋ねてみると、「……」と返ってくることがほとんどです。

要するに、不安に思う人というのは、自分の持っているお金の多い少ないにかかわらず不安なのです。

その一方で、「これだけで大丈夫なの?」と、こちらが心配になるような状況でも、それほど不安を感じない人もいます。

つまり、不安だと思うから不安になる。それが不安の正体だと私は考えています。

たしかに老後は、たいていの場合、収入が減ります。でも、これから先はもう、それほどお金にこだわらなくても好きなように生きていけるのではないでしょうか。

まして「ひとり老後」なら、いっそう自由度は高いでしょう。

「ひとり老後」のあなたにおすすめしたいのは「美しく優雅な節約」です。

節約というと、なんだかわびしい、みすぼらしいというイメージがつきまといがちですが、ここで私がいう「節約」はそうではありません。

ダイエットに成功すると心身ともに晴れやかになるように、暮らしにおいても、不必要なものをそぎ落とし、簡素で落ち着いたものに整えると、わびしいどころか精神的にはいちだんと深まった、清々すがすがしい日々を実現できるのです。

人生の後半期、それもひとりでめざす「節約生活」とは、世間の価値観にわずらわされず、自分らしいお金の使い方をすることだといえます。

そこで待っているのは、このうえなく深い充実感に包まれた暮らしです。それこそが真の「ゆとりある生活」だと言い換えてもいいでしょう。そこには一抹の不安もありません。