アイデアと聞いて多くの方が思い浮かべるのは、「おもしろい」とか「ハッとさせられる」など、“驚くような内容”のものであるはず。でも、どうすれば驚くような内容になるのでしょうか?

この問いに対して『今までにない発想を生み出す アイデアの着眼点』(小川仁志 著、フォレスト出版)の著者は、“常識を超える”ことが求められるのではないかと答えています。常識を超えないアイデアなんて、本当の意味でアイデアだとはいえないように思うとさえ。

ビジネスにあてはめてみれば、アイデアをめぐる現状はさらにシビアなものになるでしょう。なぜならいまはどの企業も過去のレガシーや成功体験を捨て、懸命にイノベーションを模索しているからです。誰しもが、どんな企業もが、一度アイデアを出さなくなったら、すべてがおしまいになるという状況にあるわけです。

つまり、常識を超えたアイデアこそがイノベーションの鍵を握るということ。そうなると、どうすればそんなアイデアが出せるようになるのかを知りたくなってくるところです。

さて、その答えは?

簡単です。常識を超えた思考をすればいいのです。この世には幸い常識を超えた思考をするための学問があります。

そう、哲学です。哲学とは常識を超えて思考することであり、そのための思考法にほかなりません。

したがって、それを使ってアイデア出しをすれば、当然のことながら驚くようなアイデアが出てきます。本書ではそのノウハウを余すところなく紹介しています。(「はじめに」より)

そんな本書の第1章「アイデアを生み出す『哲学思考』とは?」のなかから、きょうは哲学がアイデア発想に役立つ理由を解き明かしてみることにしましょう。

なぜ哲学がアイデア発想に役立つのか?

哲学は、「当たり前を疑う学問」「物事の本質を探究する学問」だといわれます。もちろんそれは間違いではないものの、著者にはまた違った考え方があるようです。物事に新たな意味を見出す部分にこそ、哲学の意義があるというのです。

いいかえればそれは、常識の枠を超えて考えるということ。普通に捉えるとなんでもないものを前にして、あえて“普通”の枠を超える。そうすることを通じ、異なる捉え方をしてみるということです。

著者によれば、それこそが単に「考える」ということと哲学との違い。私たちは普段、基本的に常識の枠内だけで物事を考えているもの。しかし、当然ながら、それでは新しい発想は生まれません。そこで新しい発想をし、アイデアを出すために、常識の枠を越える必要があるわけです。(19ページより)

哲学思考の3ステップ

では、どのようにすれば常識の枠を超えられるのでしょうか? 著者はそのために、哲学で思考するための次の3ステップが必要だと考えているそうです。

① 疑う

② 視点を変える

③ 再構成する

(21ページより)

もちろんそのあとに、考えた対象をきちんと言語化する必要はあるでしょう。なぜなら人間は、言語化しない限り、本当に考えたとはいえないからです。試しに言語を用いずにアイデアを頭のなかで思い浮かべてみれば、その難しさを実感できるはず。仮に頭に絵が出てきたとしても、その絵のことを説明しようとすれば、やはりことばが必要となってくるもの。

だからこそ、上記のようなプロセスを経ることになるのです。

最初の「疑う」は、自分が考える対象についてどう思っているのかという、“前提”の部分を確認するステップ。いわば、その対象に関する知識や考えの棚卸しをするわけです。

続いては、「視点」を変えるプロセス。つまり、できるだけ多様な視点で捉えるようにするということです。私たちは自分の視点しか持ち合わせていないため、どうしても物事を一面的に捉えてしまう傾向にあります。しかし、それでは物事の本質は見えてこないため、新たな視点が必要なのです。

そして、次はそれを「再構成」するステップ。とりわけ自分の気づいていなかったような要素に着目し、それを捉えなおす。そして最後に、それを言語化していくのです。

なお、こうした一連のプロセスにおいては、著者が「非思考的要素」と呼んでいるものが不可避的に影響しているのだそうです。 “本能”“直観”“身体”“感情”“経験”“意志”“欲望”といった意識的な思考とは異なる要素が、人間の思考に影響を与えるわけです。

たとえば、どういう視点で捉えたいとか、どのようにまとめたいとかいうときに、どうしても無意識のうちに直観や感情、欲望といったものがその判断を左右しています。これによって哲学思考の結果は人それぞれとなるわけです。(24ページより)

つまり哲学思考の結果として導き出される物事の本質は、人によって異なるものだということ。「哲学に答えはない」といわれますが、それは「唯一絶対の答えがない」というだけのこと。その都度の答えは、存在しているわけです。

すなわちこれが、哲学の基本的な思考プロセス。こうして世界を新たなことばで捉えなおし、その新しいことばを設計図として、世の中に新たな価値観を生み出していくことが求められているということです。

かつてフランスの哲学者ドゥルーズは、「哲学とは概念の創造である」と喝破しましたが、まさに哲学とは新しい言葉、概念を生み出すツールにほかなりません。現代の社会は、こうした「クリエイティブな営み」として哲学を再認識する必要があるでしょう。(25ページより)

このように哲学思考をすることで、私たちは物事をより深く理解することができるようになるわけです。(21ページより)


こうした考え方を軸に、歴史上の傑出した哲学者たちによる着眼点を紹介した内容。しかも、それらをどう使えばおもしろいアイデアが出るかについても解説されているため、さまざまな場面に応用できるはず。そんな本書は、視野を広げてビジネススキルを高めるために役立ってくれそうです。

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Source: フォレスト出版