サイエンス

ウイルスは「動物からヒト」よりも「ヒトから動物」に感染する方がはるかに多いという研究結果


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、コウモリやネズミ、鳥などの動物により媒介される人獣共通感染症に不安を抱くようになった人は多いはず。ところが、さまざまなウイルスのゲノムを分析した新しい研究では、「ウイルスが新たに『動物からヒトに感染するパターン』よりも、『ヒトから動物に感染するパターン』の方が多い」という結果が明らかになりました。

The evolutionary drivers and correlates of viral host jumps | Nature Ecology & Evolution
https://www.nature.com/articles/s41559-024-02353-4


Humans pass more viruses to other animals than we catch from them | UCL News - UCL – University College London
https://www.ucl.ac.uk/news/2024/mar/humans-pass-more-viruses-other-animals-we-catch-them

One Animal Spreads More Viruses Than Any Other And It's Not What You'd Think : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/one-animal-spreads-more-viruses-than-any-other-and-its-not-what-youd-think

現代社会を脅かす新興感染症の多くは、動物の体内を循環するウイルスがヒトに感染することで発生します。しかし、こうした人獣共通感染症が社会に及ぼす影響がクローズアップされる一方で、「ヒトから動物にウイルスが感染することもある」という点については、それほど注目されていません。

そこでユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームは、公的データベースに登録された1200万個ものウイルスゲノムを分析するツールを開発。このツールでデータベースを分析し、32のウイルスファミリーにおけるウイルスの進化と宿主の移動についての歴史を再構築し、ウイルスゲノムのどの部分が宿主間の移動中に突然変異を起こしたのかを調べました。


分析の結果、ウイルスの新たな宿主動物への適応(宿主ジャンプ)が発生する可能性は、「ヒトからその他の動物への感染」が「動物からヒトへの感染」よりも2倍近く高いことが判明しました。このパターンは、分析したほとんどのウイルスファミリーで当てはまったとのことです。

なお、ヒトはあくまでウイルスが感染する動物の一種であり、ウイルスの大規模な宿主ネットワークの一部に過ぎません。今回の研究で特定された推定宿主ジャンプの81%は、ヒトが関与しないものだったと報告されています。

論文の共著者のフランソワ・バロー教授は、「私たちは、ヒトを人獣共通感染症の受け皿としてではなく、病原体を際限なく交換する広大な宿主ネットワークのノードのひとつとして考えるべきです。動物とヒトの間のウイルスの広がりを調査・監視することで、ウイルスの進化をより良く理解し、将来の新興感染症の発生や流行に備えることができます」と述べました。


論文の筆頭著者で博士課程に在籍するセドリック・タン氏は、「ヒトが動物にウイルスを感染させると、その動物に害を及ぼして種の保全を脅かす可能性があります。さらに、近年H5N1型鳥インフルエンザで起きているように、流行を防ぐために大量の家畜を処分する必要性が生じた場合、食糧安全保障に影響を与えて新たな問題を引き起こすかもしれません」とコメントしました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
感染症を広めまくる「スーパー・スプレッダー」とはどのような人なのか? - GIGAZINE

伝染病を最初に広めた人に注目が集まると弊害が生じる、その理由は? - GIGAZINE

人が細菌やウイルスに感染するまでのプロセスを感染症の研究者が解説、感染を防ぐ効果的な対策とは? - GIGAZINE

人類が直面した最強最悪の敵「天然痘ウイルス」とはどのようなウイルスなのか? - GIGAZINE

普段使うベッドは微生物が繁殖しまくっている「シャーレ」のようなもの、どうすれば清潔に保てるのか? - GIGAZINE

環境破壊がなぜパンデミックを生み出すのか? - GIGAZINE

温暖化が「感染症の流行」を引き起こす恐れがある - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.