近年のAI翻訳ツールの進化はすさまじく、学術論文のような専門的な文書も「ちゃんと読める」レベルまで和訳できるようになりました。

ただ、1つボトルネックがあって、それはPDFファイルの翻訳。翻訳後のレイアウト・表組みが大きく崩れて、読みにくくなるケースが多かったのです。

【この記事はこんな人にオススメ!】

  • PDFファイルをレイアアウトを崩さず翻訳したい
  • 翻訳ツールを使う機会が多い
  • コストをかけずにクオリティの高い翻訳がツールを探している

単月980円で使い放題

最近は、その問題を解決した翻訳ツールがいくつか出ています。

今回紹介する「Readable」もその1つ。開発したのは、日本のスタートアップである株式会社ネクストラボ。

2023年5月にリリースされ、1年契約(9800円)と月額(980円)のコースがあります。特に月額コースは、頻繁には翻訳をしないライトユーザー層も食指が伸びやすく、「お試しで使ってみようかな」という方にはオススメです。

「Readable」のトップビュー
「Readable」のトップビュー
Screenshot: 鈴木拓也 via Readable

操作は手軽でとても簡単

「Readable」の翻訳処理は、画面上でPDFファイルをアップロードするだけです。

PDFファイルのアップロード画面
PDFファイルのアップロード画面
Screenshot: 鈴木拓也 via Readable

アップロードすると、「翻訳中」と表示され、しばらくすると翻訳完了。ファイルの大きさにもよりますが、待ち時間は十数秒から数十秒の範囲です。翻訳が完了すると、「翻訳結果をダウンロード」するよう指示されます。

翻訳完了時の画面
翻訳完了時の画面
Screenshot: 鈴木拓也 via Readable

ダウンロードの形式は、訳文(日本語)のページと原文(英語)のページが交互に表示された形式と、訳文のページのみからなる形式の2種類。

「Readable」では日英交互に表示された形式が「オススメ」だそう。これは原文と訳文を突き合わせて、誤訳の有無などじっくり確認したい場合には便利だと思います。

逆に、下調べとして多くの文書に目を通す必要があり、内容把握レベルでいい場合は、訳文のページのみがいいでしょう。

注意したいのは、アップロードできるPDFファイルのページ数は100ページまで、ファイルの大きさは50MBまでという上限がある点。

この制限を超過する場合、Adobe Acrobatの有料機能で1つのファイルを複数に分割する必要があります。もしもファイルがパスワードで保護されていれば分割はできず、ここが利用にあたってのボトルネックになるでしょう。

脱帽レベルの忠実なレイアウトと訳文

では、実際に使ってみて、レイアウトや訳文のクオリティを確認してみます。

使用するのは、米国心理科学会の会報で発表された“The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking”という10ページの論文。

キーボードで入力するよりも手書きのほうが記憶にとどまりやすいという、ライフハック好きなら楽しめる内容です。

文章は、以下のように2段組みとなっていて、グラフもいくつか入っています。

Screenshot: 鈴木拓也 via The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking
Screenshot: 鈴木拓也 via The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking

これを、そのまま「Readable」にアップロードし、10秒足らずで仕上がった訳文をチェック。

まずレイアウトですが、忠実に保持されていることが見てとれます。たとえば下図のとおり、上に載せた切り抜き部分は、2段組は崩れず、グラフの位置も同じです。

Screenshot: 鈴木拓也 via The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking
Screenshot: 鈴木拓也 via The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking

訳文の質も文句なしの仕上がり

レイアウトは完璧と言えますが、訳文の質は?論文の冒頭の要旨の訳文(一部)は次のとおり。

【「Readable」の訳文】

「ノートパソコンでメモを取るのは、手持ちではなく、ますます一般的になってきている。多くの研究者が、ノートパソコンの音符の取り方は、ロングハンドの音符の取り方よりも学習効果が低いと指摘しています。

先行研究では、主にノートパソコンを使用する際の学生のマルチタスクや注意力散漫の能力に焦点が当てられている。

本研究では、ノートパソコンがノートを取るためだけに使われたとしても、その使用によって処理が浅くなるため、学習が損なわれる可能性があることを示唆している」

最初の一文“Taking notes on laptops rather than in longhand is increasingly common.”は若干コケている様子。

筆者が訳すと「手書きよりもノートパソコンで書くことが、ますます一般的になっている」となります。

「Readable」が誤訳したのは、“longhand”。意味は、「手書き」ですが、「手持ち」と間違えています。次の文章にもこの単語が登場しますが、そこでは「ロングハンド」と誤訳。

また、“note taking”が「音符の取り方」と誤訳されています。作曲の話など文脈によってはありかもしれませんが、ここは「ノートの取り方」が正解。

また、「ですます調」と「だ・である調」が混在しています。現状、どちらかに統一する機能はないですが、内容把握の視点では大きな問題ではないでしょう。ちなみに、敬体・常体のどちらかに一括変換するサービスは、インターネット上にいくつもありますので、それを活用するのも◎。

総合的に見ると、指摘した箇所以外については誤訳はなく、かなりこなれた訳文になっています。

当初予想していなかったほどのクオリティに感服しました。“longhand”や“note taking”が読解できていないのは、「Readable」内蔵のAI辞書にこの単語が含まれていなかったのかなと推測します。

割愛しますが、要旨以降の本文についても素晴らしい仕上がり。「講義をプレイ」といった、つっかかる語句はありますが、わずかです。

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