Google DeepMind共同創設者のデミス・ハサビス氏らがノーベル化学賞を受賞、「AlphaFold」などタンパク質構造予測AIの研究が高く評価される
by George Gillams
スウェーデン王立科学アカデミーが、ワシントン大学のデビッド・ベイカー教授、Google DeepMindの創設者であるデミス・ハサビス氏とシニア・リサーチ研究者のジョン・M・ジャンパー氏に2024年度のノーベル化学賞を授与すると発表しました。授与理由は「計算によるタンパク質設計・タンパク質構造予測に対して」で、大規模な計算によるタンパク質設計や構造解析、AIによるタンパク質構造の予測が評価されました。
Press release: The Nobel Prize in Chemistry 2024 - NobelPrize.org
https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2024/press-release/
BREAKING NEWS
— The Nobel Prize (@NobelPrize) October 9, 2024
The Royal Swedish Academy of Sciences has decided to award the 2024 #NobelPrize in Chemistry with one half to David Baker “for computational protein design” and the other half jointly to Demis Hassabis and John M. Jumper “for protein structure prediction.” pic.twitter.com/gYrdFFcD4T
タンパク質は20種類のアミノ酸が連鎖して複雑な構造を持つ分子です。ホルモンやシグナル物質、抗体など、タンパク質は生命の基礎となるすべての化学反応を制御し、さまざまな組織の構成要素としても機能します。
しかし、タンパク質の開発において重要なのがその構造です。タンパク質は長いヒモのようにつながったアミノ酸が折り畳まれることで3次元構造を持ち、この構造こそがタンパク質の機能に大きな影響を与えます。アミノ酸の配列自体は設計図となるDNAやRNAのゲノム解析から知ることができますが、その長いアミノ酸鎖を折り畳むとどんな構造になるのかを予測するのは非常に難しいものがありました。
ベイカー教授は2003年に、アミノ酸から新しいタンパク質を設計することに成功。以来、ベイカー教授は医薬品やワクチン、ナノマテリアル、小型センサーとして使えるようなタンパク質などを開発しています。
Improving Protein Expression, Stability, and Function with ProteinMPNN | Journal of the American Chemical Society
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.3c10941
特にベイカー教授が主導したプロジェクトで知られているのがRosetta@homeです。これはタンパク質構造予測を研究するため、世界中のコンピューターの処理能力を借りて、タンパク質の構造解析を行うボランティアプロジェクトです。
新型コロナウイルスの解析を自分のPCの計算リソースを使って手助けできる「Folding@home」「BOINC」レビュー - GIGAZINE
そして2018年、当時Googleの兄弟企業だったDeepMindは、遺伝子配列情報からタンパク質の立体構造をAIで予測する「AlphaFold」を開発しました。
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DeepMindはさらなる研究を重ね、2020年に「AlphaFold 2」を発表し、タンパク質構造解析を課題とするフォールディング問題の解決を宣言。これまで特定された2億種類以上のタンパク質の構造をほぼすべて予測することが可能になりました。
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AlphaFoldの登場によって、タンパク質の構造予測が簡単になり、新薬の開発や新たな酵素の発明が容易になりました。スウェーデン王立科学アカデミーは「タンパク質がなければ生命は存在できません。タンパク質の構造を予測し、独自のタンパク質を設計できるようになったことは人類にとって最大の利益です」とコメントしています。
ノーベル賞の授賞式は2024年12月10日(火)にスウェーデンのオスロで開催されます。賞金は1100万スウェーデンクローナ(約1億5800万円)で、半分はベイカー教授が、もう半分はハサビス氏とジャンパー氏が共同で受け取ります。
なお、2024年のノーベル物理学賞は「人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にする基礎的な発見と発明」に対して、プリンストン大学のジョン・J・ホップフィールド名誉教授とトロント大学のジェフリー・ヒントン名誉教授に贈られており、化学賞と同じくAI関連の研究が受賞しています。
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